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『ばらの森にいた頃』 雲田はるこ 【日刊マンガガイド】

2017/06/22


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ばらの森にいた頃』

  
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『ばらの森にいた頃』
雲田はるこ 祥伝社 ¥650+税
(2017年5月25日発売)


『昭和元禄落語心中』の雲田はるこによる、BL誌「on BLUE」やアンソロジーに発表した短編をまとめた1冊。

表題作「ばらの森にいた頃」は食用の薔薇農園を舞台にした、甘くせつないエピソード。
主人公の正宗は、数百年前に死んで以来植物や動物に転生を繰り返す恋人に寄り添い続ける吸血鬼(バンパネラ)。
作中でおいしいおいしいといって食べられる食用バラが本当においしそう。
エディブルローズなんてのが世のなかには存在していて、バラの花びらのジャムなどがネット通販でも簡単に手に入るし、ケーキの飾りにも使われたりするのだけれど、本作みたいに野菜のようにザクザク使うのは憧れるなあ。

ようやく人間に生まれ変わって正宗に出会えた恋人の陽は、「自分も吸血鬼になりたい」と願い、結果的に正宗の薔薇農園を枯らしてしまう。
その時の、いっせいに散るバラの花びらの、人の気も狂わせんばかりの乱舞のイメージが強烈。

「モンテカルロの雨」の、世界で2番目に小さいリゾート国家モナコの観光地モンテカルロに撮影のため訪れた落ち目の日本人俳優が、共演のフランス人の若手と演じる情事も素敵。
「雨のシーンが必要だ!」といい張る監督のせいで、撮影を待たされる2人が過ごす時間のバカンス感が最高。

ライバルのヤンキー同士がお風呂屋さんに通ううちに深い仲になってしまう「ヨシキとタクミ」の、小動物めいた、あっけらかんとした夏っぽさ! ヨシキなのに通称は“湘南の火の玉暴威(ボーイ)”なのかよ、というツッコミはこの際、胸にしまっておこう。

脚フェチのノンケ先輩が、その部下で絶世の美脚を持つ後輩に籠絡される「Be here to love me」のかわいらしさは、なんというか、万人に知らしめたい。
美脚後輩のアンドロジナスな魅力。
絶世の美脚という必殺武器がありながら、思い人を誘いこむなめらかな手管がエロい。

バラの見頃は梅雨入り前、モンテカルロでのんびり雨を待ち、夏は砂浜を走ってお風呂屋さんで汗を流す。
最後は夜の脱衣所で夏服を脱ぎ、暑い夜をベッドで過ごす。
まるで季語を散りばめた歌集のような読み心地。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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