『ニーベルングの指環』第1巻
松本零士 新潮社 \505+税
1869年の9月22日は、ミュンヘン宮廷歌劇場にて楽劇『ニーベルングの指輪』の序夜「ラインの黄金」が初演された日だ。
『ニーベルングの指輪』は、序夜「ラインの黄金」、第1日「ワルキューレ」、第2日「ジークフリート」、第3日「神々の黄昏」の4部構成で北欧神話の叙事詩を表現した楽劇作品。リヒャルト・ワーグナーが1848年から1874年の26年間という長い時間をかけて作曲した大作で、15時間(4日間)という長大な上演時間でも知られている。
映画やCMなどでおなじみの名曲「ワルキューレの騎行」も本作の一部分を抜粋したものであるのはご存知だっただろうか?
そんな名作楽劇をおもしろい形で翻案したマンガといえば、マンガ界の巨匠・松本零士の『ニーベルングの指環』だ。
本作は、物語の筋こそワーグナーの楽劇をなぞってはいるものの、古代北欧の世界観から惑星間交流がさかんな宇宙時代へと舞台を移し、メーテルやハーロック、エメラルダスといった松本零士マンガではおなじみのキャラクターがスターシステムで登場するなど、作品を大胆に改変。
また、連載初期は中古車雑誌に掲載されていたこともあり、作中に宇宙航行用に改造された20世紀の名車が登場するなど、様々なジャンルがごった煮にされた混沌の魅力にあふれた一作となっている。
残念ながら、現在物語は第三部「ジークフリート」で中断しているが、途中まででもそのおもしろさは折り紙つきだ。
名作楽劇を鑑賞する前に、宇宙の男の美学によって再構成されたマンガ版を堪能するのも悪くないだろう。
<文・一ノ瀬謹和>
涼しい部屋での読書を何よりも好む、もやし系ライター。マンガ以外では特撮ヒーロー関連の書籍で執筆することも。好きな怪獣戦艦はキングジョーグ。