365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
8月12日はメジャーリーグが大規模ストライキに突入した日。本日読むべきマンガは……。
『フォーシーム』 第1巻
さだやす圭 小学館 ¥552+税
「メジャーリーグで長期間のストがあった」ということは、おぼろげながら覚えている人も多いことだろう。
本日8月12日は、1994年から1995年にかけてメジャーリーグが、その232日間にもおよぶ大規模なストライキに突入した日である。
それまでにもメジャーリーグでは経営者側と選手側がしばしば衝突し、幾度かのストライキやロックアウト(経営者側からの施設使用禁止)が起きてはいるが、232日間ものストライキとなったのは、まさにケタ違い。
現在のところプロスポーツ史上最長となっているそのストライキにより、公式戦の938試合と1994年のワールドシリーズが中止に追いこまれており、当時のアメリカ合衆国大統領だったビル・クリントンが2度の調停に乗り出してもなお収拾しないほどこじれた事態となってしまった。
その後、2002年にもストライキの危機を再び迎えるのだが、そうした要因となるのは選手の年俸の問題である。高騰を続ける人気選手の年俸と、それによって生じる財力の有無による球団の格差──その難題を「セイバーメトリクス」と呼ばれる統計学的な選手評価の導入で打破し、いわゆる「お買い得」な選手を獲得することでリーグ最低クラスのチーム年俸でありながらプレーオフ進出を続けたのがオークランド・アスレチックスである。
そのGMとして球団を率いるビリー・ビーンについては、2011年にブラッド・ピット主演によって映画化もされた『マネーボール』で詳しく描かれているが、そんなメジャーリーグ事情を背景に描かれているマンガが、さだやす圭による『フォーシーム』である。
本作の主人公となるのは、数々の華々しい成績を残しながら、36歳となってすでに選手としてのピークをすぎた投手である逢坂猛史(おうさか・たけし)。
直球(=フォーシーム)を得意とする豪腕タイプで、性格的にもストレートな「俺様気質」ではあるが、野球に対する取り組みはストイック(実在の野球選手では、かつてヤンキースにも所属した伊良部秀輝あたりを想像すると近いかも?)……というキャラクター。
そんな彼が日本で起こしたトラブルがもとでアメリカに渡り、百戦錬磨の投球術を武器に「オープン戦で1点でも取られたら即解雇」や「1ドルからスタートして連続セーブ成功ごとに報酬が倍のかわりに、失敗したらまた0からやり直し」という成功報酬の契約を結ぶなど、常に崖っぷちの状況で活躍を続ける痛快すぎる野球マンガである。
そして作中に登場するメジャーのチームや選手はいずれも架空のものとはなっているものの、逢坂の所属する「オークランド・アスリーツ」のモデルがオークランド・アスレチックスであるのは明らかだろう。『マネーボール』で描かれた貧乏球団ならではの事情と「セイバーメトリクス」による選手評価は『フォーシーム』の作中にも登場している。
また、1ドルからの倍々式報酬が巨額なものとなっていくにつれ緊張感を増していく経営陣と逢坂との関係など「メジャーリーグとカネ」の要素が、作品をたまらなく刺激的なものにしているのは間違いない。
なお、本作と同じくさだやす圭が手がけた長編作品(連載期間は33年!)である『なんと孫六』の主人公・甲斐孫六がライバルとして登場するのも、長年のファンとしてはうれしいポイント。
「暴力事件で日本から追放」という共通する過去を持ちながら、年齢などは対照的ともいえる逢坂と孫六がどうクロスオーバーするのか?
現在進行中の作品であるため詳細はあえて伏せておくが、この2人の対決も見逃せないぞ!
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。