日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ふたりモノローグ』
『ふたりモノローグ』 第1巻
ツナミノユウ 講談社 ¥540+税
(2017年7月28日発売)
WEBマンガ配信サービス「サイコミ」で連載中の『ふたりモノローグ』初単行本が発売中である。
麻績村ひなた(おみむら・ひなた)は見た目も思考も暗いオタク女子高生。
ある日、授業中にとつぜんひとつの事実に気づいた彼女は「あっ」と声をあげそうになる。
そっと視線を送った先には、隣の席に座るクラスメイト、御厨みかげ(みくりや・みかげ)さん。見た目は派手派手、言動はクールな美人ギャルJKだ。
そうだ、彼女こそは、小学生時代の一時期に仲よしだった「みかげちゃん」ではないか!
「私達一生親友でいようね!!」
幼い日、そんな言葉をひなたのほうからかけておきながら、気難しい態度の「みかげちゃん」を持て余して別の友人をつくり、疎遠になった苦い思い出が頭をよぎる。
結局仲直りできないまま御厨さんは転校。それから今同じ高校に通うまでの空白、じつに10年間。
懐かしい。
昔はおっとりしたお嬢さま風だった子が、金髪ギャルになったいきさつを聞いてみたい。
何より「あの時はごめんなさい」と謝りたい……。でも怒られそうで、怖い!
思い悩むひなたに、これまたそっと視線を送るのは当の御厨さん。
じつは彼女、幼少期に贈られた「一番の親友」という言葉をずっと温め続けていた。
かつて関係に溝ができたきっかけも、大好きなひなたがほかの子と仲よくするのが我慢できない、自分が一番になりたいという気持ちをこじらせたから。
その時「もっとおしゃれでかっこいい女子にならなきゃ!!」と決意した結果が現在のギャル風情なのである。
だから昔のことで怒るどころか、運命的な再会に大喜びなのだ。
そして、ひなたはついに自分が「みかげちゃん」だと気づいたらしい。
今こそ再び仲よくする絶好の機会!
最高の親友でいられるよう、かっこよくクールに振るまいつつ声をかけなくては。
でも外面だけ装ってる自分ではボロが出てしまいそうで、怖い!
うちとけてお話をしたい、また親友になりたい。 気持ちの向きは同じなのに。
ひとりは、「やっぱり怒ってるのかな」「そばにいて迷惑かけてるんじゃ」とビクビクしてしまう。
もうひとりは、「がっかりされちゃう」「ダサいと思われたくない」と悶々してしまう。
そんな2人それぞれの独白が渦巻くなか、おっかなびっくりで食い違うコミュニケーションを描く、ドキドキハラハラのコメディ、それがタイトル文字どおりの『ふたりモノローグ』という作品である。
特にインパクトあるのが、ひなたのなんでもない一挙手一投足を超過敏に愛おしがるみかげの姿だ。
ひなたが背負ったリュックの肩ひもがねじれてるのを見ただけで「新ジャンルを開拓するとはッ!!」「庇護欲の中枢に破城槌をブチ込まれた気分だよ!!」「国が保護すべき!! 文化財として!! 尊い!!」と暴走する始末で、オタク設定はひなたのほうだが“オタク的反応”はギャルが担当しているのがおもしろいところ。
こみあげる興奮と重すぎる愛情を決壊寸前のところでおさえながらフーフーと息を荒げ、ぎらりと眼光を放つ様子は、ツナミノユウの既存作でもおなじみの、猛獣性と威圧感にあふれた演出で冴えわたっている。
感情の波がほぼ物理的に肉体(顔面)にあらわれる図は怪獣めいてすさまじく、それほどに好きでたまらないんだね……とせつなくもなるシーンが多い。
さて、この作品、実写ドラマ化のニュースが出て注目を集めている。
AbemaTVで10月から本放送スタートだが、第1話のみ7月後半から先行配信済み。
マンガにおけるモノローグと実写映像におけるモノローグの性質の違いなど比べてみるにはうってつけの題材なので、両方あたってみるとますます楽しいだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7