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『そのたくさんが愛のなか。』 第1巻 吉田聡 【日刊マンガガイド】

2017/08/29


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『そのたくさんが愛のなか。』



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『そのたくさんが愛のなか。』 第1巻
吉田聡 小学館 ¥552+税
(2017年7月28日発売)


『湘南爆走族』の吉田聡が自身と同世代(1960年生まれ=50代後半)の男を主人公に、笑って泣いて恋をして……という、まっすぐな青春(!)グラフィティを叩きつけてきた。
しかも湘爆の人気者、あの権田二毛作(ごんだ・にもうさく)も参戦とあらば、期待せずにはいられない。

舞台は三浦半島の一色海岸を見降ろす風光明媚なとある町、主人公の寿和一路(すわ・いちろ)は56歳のバツナシ未婚男。
早期退職をした彼は久し振りに地元に帰ってきた。
退職金で格安の中古マンションとバイク(ヤマハSR400)を買い、ひとりで暮らしている。
若いころかなりヤンチャをしていた寿和は、かつての仲間たちに連絡を取るが——。

ものすんごく、地に足のついた設定だ。
中年終盤戦を迎えて地元に戻り、人生をリスタートさせることを考えているひとり身の男は少なくない。
しかし実際に戻ってみれば、友人たちにはそれぞれ家族があり、仕事がある。
同窓会的に瞬間は盛り上がったとしても、以前のようにダラダラと毎日毎日つるむようなマネができるわけでもないのだ。

それでも寿和の帰還をきっかけに、彼らのなかに眠る若者たちが少しずつ目を覚ます。
とはいえ乗りものである肉体はサビだらけで、40年前と同じというわけにはいかない。
もうムチャはきかない年齢なのだ。
一番血の気が多かった仲間“モロ”のザビエルハゲを見つめながら、ちょっと泣いちゃう寿和である。

70年代ツッパリ模様をフラッシュバックさせながら、どうにかして青春をやり直そうと動き始める寿和。
「いつまでもガキのころを引きずるオヤジなんてカッコ悪い」とバッサリ斬るのもいいだろう。
でも変わらずにいることで罰まで受ける必要は絶対にない。
寿和の心のなかにある、ホコリを被った古いラブレターを捨て去るための手助けを仲間たちは始める。

照れ隠しで笑い飛ばしながらストイックに友情や恋愛を描いてきた、唯一無二の吉田スタイルは大健在。
今のところ本筋にはかかわらず、青春の象徴として登場するグレイト・Gこと権田二毛作も強烈なスパイスとして効いている。
「人生の春にたとえられる時期」が「青春」だとすれば、年齢なんか関係ない。止まっていたはずの時計の針が動きだした56歳の青春を、ハラドキしながら見守ります。押忍。



<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター

単行本情報

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