日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『グルメ漫画50年史』
『グルメ漫画50年史』
杉村啓 講談社 ¥920+税
(2017年8月25日発売)
世はまさに大グルメマンガ時代!
少年誌・少女誌から青年誌・ヤングレディース、一般週刊誌からWEBコミックまで。ありとあらゆるメディアに様々な形態のグルメマンガが連載されている。
その数たるや、普段から新刊レビューを執筆している我々「このマンガがすごい!」ライター陣ですら、全部は追いきれないほどだ。
現在ほど隆盛ではなかったが、昭和のマンガにも料理を扱う作品は存在した。しかし、どの作品がパイオニアなのかは判然としない。その答えを明示してくれるのが『グルメ漫画50年史』。
普段は“醤油・日本酒研究家”として活動する杉村啓が、半世紀近い歴史を持つグルメマンガ史を年代別に紐解いていてくれる新書だ。
特筆すべきは、70年代、80年代、90年代、2000年代、2010年代とカテゴリ別に主要グルメマンガのスタート時期を年表にしてくれている点。
これによると、グルメマンガの元祖は1970年に出現。「少年ジャンプ」に連載された望月三起也の『突撃ラーメン』がそれだ(そのほかにも1970年には2作品登場している)。
望月三起也といえばグルメマンガ界の帝王・土山しげるの師匠。そう考えると感慨深いものがある。ただし本作はこうしたマニアックなウンチクはひかえめ。
「グルメ漫画は時代を映す鏡」をテーマに掲げ、各作品が生まれるに至った背景を考察し、時の流れを追って読ませていくつくりになっている。
そういう意味ではあくまで“50年史”であり、ディープなグルメマンガ分析本ではない(そもそも取りあげている作品も、コミックスが10巻以上続いた人気マンガが中心)。
それでもこうして半世紀にわたるグルメマンガの歴史をカチッとパッケージした書籍は資料性が高く、きっちりまとめあげた著者には感服しきりだ。
70年代の『包丁人味平』、80年代の『美味しんぼ』、90年代の『孤独のグルメ』といったエポックな作品を経て、どんどんと成熟していったグルメマンガ。
A級からZ級まで、和洋中を問わず、あらゆるジャンルやご当地、食材や調理法、料理対決から食べ方のこだわり紹介、果ては架空のメニューを楽しむファンタジーまで……。
もはや出尽くした感もあるが、この飽和状態から、さらなる進化を遂げたグルメマンガの登場を期待したい。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。