『キッテデカ』第1巻
寺沢大介 小学館 \552+税
10月9日は「世界郵便デー」。1874年にスイスで行われた国際会議を契機として、全世界を「ひとつの郵便地域」とすることを目的とした「万国郵便連合(UPU)」が発足。
そのおかげで現在では、どんな片田舎にでも海外ネットオークションで落札した物が届いたりするわけだが(もちろん、そんなかたよった一例以外にも多数の恩恵はあります)、そのUPU設立にちなんで、1969年に国際的な記念日として「UPUの日」が制定され、1984年に「世界郵便デー」に改称された。
さて、マンガの世界で郵便といえば、郵便配達が命がけとなっている危険な異世界で、どんな困難にも負けずに「テガミ」を届ける物語である『テガミバチ』がまず思い出されるところかもしれないが、今回は、よりダイレクトに郵便ネタで勝負している『キッテデカ』を紹介しておきたい。
作者は『ミスター味っ子』や『将太の寿司』などで知られる寺沢大介。
『キッテデカ』はそのタイトルのとおり、おそらく史上初(そして、これが最後かもしれない)の、切手の知識だけで事件を解決する刑事ものだ。
「公務員なら余暇で優雅に切手ライフがエンジョイできる」という、非常に残念な動機で警察官となった前島郵雅は、勤務中にも切手コレクションの整理をするような刑事。そんな彼が新人女性刑事・宮園密香(ひそか)とコンビを組んで、たまたま切手がきっかけとなって事件を解決していく……という物語。
なお前島は、宮園密香に「もし結婚したら、日本の郵政の父と呼ばれる前島密と一文字違いの名前になって、マニア仲間にウケる」という理由で求婚している、くり返すが本当に残念な主人公である。
何がスゴイって、「切手が絡めば、どんな小さな手がかりも見逃さない」という一点突破だけで事件を解決するストーリーが単行本2冊分もあることだが、しかし切手に関するエピソードの散りばめ方はじつに秀逸。
第2巻では、切手だけでなく、日本の郵便制度がいかに世界的に優れているかも知ることができる。正直、かなり出オチ感のあるマンガかと思いきや、これが意外なぐらい(と言うのも失礼だが)しっかりとした作品として楽しめるのは、ベテラン・寺沢大介の持ち味がなせるワザかもしれない。
未読の方もイロモノ的な先入観を捨てて、この機会にぜひご一読していただきたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。