『子供はわかってあげない』上巻
田島列島 講談社 \630+税
(2014年9月22日発売)
「青春お気楽サイキック宗教法人ハードボイルドボーイミーツガール」というキャッチコピーに「なんのこっちゃ?」と思うかもしれないけど、つまりはそういう内容のマンガです。
学校の屋上でもじくん(書道部)と出会ったサクタさん(水泳部)は、ふとしたことから、もじくんの家の書道教室で新興宗教のおふだを見つけてしまう。じつはそのおふだこそ、5歳のときに別れたサクタさんの実父を探す手がかりになるのであった。かくして、もじくんとサクタさんの、ひと夏の冒険がはじまる。
作者の田島列島(田谷野歩から改名)にとって、これが初の長編作品。今年の年明け早々、講談社「モーニング」誌上に3週連続で読切(「おっぱいありがとう」「お金のある風景」「ジョニ男の青春」)が掲載されたのち、満を持して全20話の本作の連載がスタートした。コミックスは上下巻の2冊にまとめられているので、手に取りやすいのもうれしい。
なんといっても特徴的なのは、作品全体から漂う浮遊感だ。絵柄のかわいらしさ、簡潔で独特なセリフ選び、キッチリとコマを使って表情の変化を見せたり、間をためたり……。あらゆる要素が結びついて、「高校2年の夏休み」ならではのモラトリアムな雰囲気を醸し出す。その浮遊感は、ふわふわではなく、ぷかぷか。
物語冒頭、サクタさんがプールに浮かんでたゆたっている姿こそが、本作の空気感といえるだろう。その感覚が通底しているからこそ、父親探しとか宗教法人といった、ともすればハードボイルドに振りきれがちな題材に呑まれることなくゆったりと乗りきっていく。そしてそれは、思春期特有の心の動きにも似る。
主人公・サクタさんのストレートな感情表現もかわいらしい。小銭を握りしめて殴りかかろうとするバイオレンスな一面はあるけれど、他人のために本気で泣いたり、父親探しによっていまの家庭の幸せが壊れるかもしれないと懸念するあたりの、なんとまあ、いじましいこと!
こんな「ひんまがっていない」女の子が身近にいたら、そりゃあ高校生活も楽しかろうよ……と思わせてくれるから、ボーイミーツガールなストーリーも甘酸っぱさが増し増しに。
また、“ある感情”を「暴れ馬」にたとえたアイデアも秀逸。暴れ馬ジョニーが、大暴れするぜ。
真性のリア充でもなければ、これが人生における輝かしい瞬間だなんて学生時代は思いもしなかったけど、いいことも悪いことも、思い返してみれば、陽を浴びたプールの水面のように鈍く輝いて胸を締めつける。ノスタルジーというよりも、青春時代の感情を再構成してくれるかのような作品だ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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