日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『デザイナー 渋井直人の休日』
『デザイナー 渋井直人の休日』
渋谷直角 宝島社 ¥1,050+税
(2017年9月8日発売)
妻夫木聡&水原希子のタッグで『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』が映画化されたことで、お茶の間レベルで注目を集めている渋谷直角の最新作。
もともと「宝島AGES」でスタートしたが、同誌の休刊により「otonaMUSE」に移籍。現在も絶賛連載中だ。
主人公は世田谷区下馬に在住する50代のデザイナー、渋井直人。
80年代、90年代のいい時期に出版業界で活躍してきた大御所だけに、音楽、アート、ファッションと様々なカルチャーに精通している。そのライフスタイルは、オシャレ雑誌から抜け出たよう。
そんな意識高い系の渋井さんなのだが、いまだに独身で彼女もいない。シャイすぎる彼は女性を前にすると途端に貫録がなくなり、ズッコケを連発してしまうのである。
かわいい美大生の営業トークを間に受け鼻の下を伸ばして失敗。美人編集者とホームパーティーをすることになり、張りきったのにドタキャン。インスタで知りあった女の子と渋谷でデートをするも食事をする店が決められずにジプシー……。こうした惨劇の記憶がよみがえるたびに、自分のことを殺したくなるほど呪うことになるのだ。
今このレビューを読んでいる若い男性諸君、「50代にもなって、こんなに童貞臭いオッサンいるか?」と思うでしょ。めちゃくちゃいるから。代官山や中目黒のカフェに行ったら隣の席にいるから。一方、いまこのレビューを読んでいる若い女性諸君のなかには、「いるいる、こういうオジサン」と深くうなずいている方も多いのでは?
嗚呼、男ってやつは……。
いつもの直角印で固有名詞はもちろん多め。伝家の宝刀“手描きツイート”も健在で、思わず細部まで読みこんでしまった。
ほかの直角作品と世界観を同じくしているようで、たとえば渋井さんがカタログを手がけたというGOFFIN&KINGは、『奥田民生になりたい~』の天海あかりが働いているブランド。
隠れキャラも細かく登場するので、直角ファンならニヤニヤしてしまうこと必至だ。
話を戻そう。
男なんてどれだけ年を重ねても、若い女の子にニッコリ微笑まれただけでキュンキュンし、勘違いして先の先まで想像してしまうことをヤメられない。
これは断言する。
大人の余裕でスマートに事を運びたいのに、結局は悶々と悩み、右往左往してしまうこともしばしばだ。
そんな自意識の空回りによるペーソスをきっちり抽出し、1話・6~8ページに落としこむ渋谷直角の才能には脱帽。
ラスト3話のブチ切ない展開には不覚にも泣かされたが、渋井さんのことが大好きになりました。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。