話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』
『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』
渋谷直角 扶桑社 ¥1,000+税
(2015年7月23日発売)
自意識高い系サブカルクソ野郎どもの地獄変、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』でスマッシュヒットを飛ばした渋谷直角の最新作。
連作短編集の前作とは違って全14話からなる長編で、青春の残滓にしがみつく奥田民生信者(男)の右往左往が描かれる。
前作では歌手(になりたい35歳女子)、お笑い芸人(になりたいフリーター)、詩人(を気取ったブロガー)といった、まだ何者でもない人たちの“夢の後先”がペーソスたっぷりに紡がれたが、今回の主人公・コーロキは編集者歴10年を数える35歳。『ボサノヴァカバー』の登場人物たちと比べると肩書きもしっかりしているし、カルチャー装備も軽めで、ごくごく普通の(中年期にさしかかった)青年だ。
だからして「あまりサブカル界隈に詳しくないからなぁ…」と敬遠気味の諸兄でも無問題。スムーズに感情移入できますよ!
さて、そんなコーロキの心の支えとなっているのが奥田民生。
30代中盤の男子にとってみれば、普段着で接してくれる身近さがあるのに、決めるときは決めて、誰からも一目置かれるような人生の先輩……。そんな民生に憧れるのは至極当然だ。
物語はコーロキが、家電雑誌「ゲットガジェ」からライフスタイル雑誌「マレ」に異動になったシーンから始まる。
コーロキはアーバンなウォーターフロントのマンションで開かれたオーガニックな歓迎会で、編集部員たちが放つ異次元のシャレオツオーラに呆然。これまでのキャリアがいっさい通じない新天地に、すっかり萎縮してしまう。
そんな彼の前に現れたのが、レディースブランド「GOFFIN&KING」のプレス担当・天海あかり。
タレ目×スイートボイス×ハト胸のウルトラキュートな彼女に瞬殺されたコーロキ。ここからはタイトルどおりの愛憎劇が展開されていく。
一方で、黄昏感漂う2014年~2015年の出版界をキッチリと活写。ツイートやLINE、メール等のテキストをフリーハンドでびっちりと書きこむ直角流の力技も健在だ。
ツイッターに全公開で叩きつけられる仕事の愚痴、不毛な論戦、都合のいい吐き捨てを鵜呑みにした共感リプライ……。ついつい細部まで読みこんで大笑いしてしまったあなたも、冷静になってみれば自戒の念がわいてくるのでは?
インスタグラムやフェイスブックを駆使して、恋人の素行をたどっていくSNS時代ならではのネット探偵描写も非常にスリリングだ。