『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』第1巻
清野とおる 講談社 \650+税
(2015年6月23日発売)
単行本刊行ラッシュが続く清野とおるの最新作は、日常生活のなかで「とくにこだわらなくていいこと」に「あえて」こだわり、自分だけの幸せを見出して密かに楽しんでいる人々=「おこだわり人」にスポットを当てる野心作。
ツナ缶を開けてダイレクトにマヨネーズを投入し、その上からコショウをかけてぐちゃぐちゃにかき混ぜるZ級グルメこそが、「氷結のストロング缶(グレープフルーツ味)に、もっとも合う!」とのたまう「ツナ缶の男」を筆頭に、睡眠を徹底的に追及する男、ポテトサラダ好きが高じて同好の士を集めた秘密クラブを結成した男、白湯のすばらしさに開眼した男、さけるチーズのポテンシャルを最大限に引き出す男、コンソメパンチがあれば一生独身でもかまわないと公言する男……といった「おこだわり人」が登場する。
どのエピソードにも言えるのだが、単にひとつの行為を繰り返すだけでなく、ほかの何かと組み合わせてみたり、ひと手間加えることで新たな魅力を発見し、さらなる至福をえていること。
たとえばポテトサラダ×金麦のロング缶、睡眠×ニトリの低反発マクラ、ベランダ×寝袋、白湯×鉄瓶、さけるチーズ×天ぷらといった具合だ。
おこだわり人たちが、恍惚の表情でマイおこだわりを披露するのを序盤こそ怪訝な顔で聴いている清野が、ツッコミを入れつつも徐々にうらやましさが勝っていき、早く自分でも試したくて悶絶する様もまた、いとおかし。
「人生とは死ぬまでの暇つぶし」と説いたのは、究極の「おこだわり人」みうらじゅんだが、ひと筋縄でいかなすぎる赤羽の住民を日々相手にしている清野ですら、「精神的にはわりと常に退屈」と嘆いている。
そんな精神的退屈人にとって、日常生活を大いに楽しむ「おこだわり人」は眩しい存在。
しかしながら彼らはネット上で「ボクチン、こんなことして楽しんじゃってま~す」などとアピールする愚行はせず、我々の知らないどこかでコソコソと隠れるように堪能しているのだ。
そんな許しがたい「おこだわり人」たちをアンダーグランドから引っ張り出した清野の功績は賞賛に値するものだろう。
てなわけで清野さん、今後もどんどん「おこだわり人」たちを白日のもとに晒し、我々にもめくるめく悦楽をわけてくださーい!
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。