日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『キン肉マン』
『キン肉マン』 第60巻
ゆでたまご 集英社 ¥400+税
(2017年9月4日発売)
2011年にWEBで連載が始まった『キン肉マン』の新シリーズ。
当時読者たちはこの新連載に大いに驚いた。『キン肉マン』といえば、すでに『キン肉マンII世』というアニメ化もされた人気の続編があったのに、その『II世』の新シリーズではなく、「初代」の続きを描こうというのだ。
これだけでも驚きなのに、さらに驚くべきことがあった。
この続きがめちゃくちゃおもしろかったのだ。
『キン肉マン』がいかに当時の少年たちを湧かせたとしても、すでに20年以上前のマンガである。
あれからマンガのレベルも向上し、数々のおもしろいマンガが連載されている現在に『キン肉マン』は対抗できるのか……などと不安や心配になった読者も少なくなかっただろうが、ゆでたまご先生はそんな読者のつまらぬ思いをブッ飛ばすぐらいに、読者が少年だった当時のすごい作品を提供してきたのだ。
そのおもしろさの要因は数えあげればきりがないのだが、そのなかでもやはり一番の要因となるのが、「悪魔超人の活躍」ではないだろうか。
この新シリーズでは、突如地球に攻めこんできた完璧超人を倒すべく、キン肉マンたちが所属する正義超人とそのライバルであった悪魔超人が手を組むという、この少年マンガの王道ともいうべき展開に読者たちはただでさえ大興奮なのに、この悪魔超人たちが非常にかっこよかったのである。
共闘というかたちになりながらも、決して正義超人となれあいをしない悪魔超人たち。
そのファイトスタイルは、急所攻撃や目つぶしなどの反則はもちろん、不意打ちを仕掛けたり、嘘泣きで油断させたり、人質を取ったりと、正義超人の戦いとはひと味違う、まさに「悪魔」らしい内容だ。
だが、勝つためなら手段を選ばない彼らの「悪魔の美学」は、読者をおおいに夢中にさせた。
そして、そんなシリーズもついに終盤。
戦いはいよいよ佳境であり、完璧超人側の指導者である、ストロング・ザ・武道がついにリングに立つ。
その相手を務めるのは当然われらがヒーロー・キン肉マン…………ではなく、悪魔超人軍の総帥、悪魔将軍だ!
この悪魔将軍とストロング・ザ・武道はかつての弟子と師匠であり、何億年レベルでの因縁を持つ相手同士。しかもどちらも作中屈指の実力者という、まさに頂上決戦ともいうべき試合なのだが、20年ぶりに始まった新シリーズのラストバトルを担当するのが、まさかのキン肉マンではなく、悪魔将軍とは!
過去にキン肉マンをたいへん苦しめ、最強のボスキャラとも名高い悪魔将軍だが、かつての師匠であるストロング・ザ・武道にはその技の数々があっさり破られてしまう。
はたして悪魔将軍は武道を倒すことができるのか……。
まさに悪魔超人が大活躍したシリーズを締めくくるにふさわしい最終決戦だ。
そして、この最終決戦に参加できないキン肉マンはリング外で観戦するだけの脇役になってしまったのか? いや、そんなことはない。
たとえ試合がなくても、キン肉マンには主人公にしか務まらない最高の見せ場が用意されているぞ!
こうして新シリーズ「完璧超人始祖編」はすばらしい結末を見せてくれた。
20年ぶりのシリーズ再開という一過性の話題で終わらず、毎週日曜深夜に読者を楽しませて続けくれた、ゆでたまご先生には感謝の言葉しかないが、そんなキン肉マンの次のシリーズはすでに始まっている。
こんな究極の戦いののちに、いったいどんな試合が描けるというのか……と読者はまたしてもいらぬ心配をしていたのだが、今回新たにリングにあがったのは、ティーパックマンやカナディアンマンという、これまでろくに活躍の場面がなかったB級超人たち!
この予想外の展開に、読者は驚き、困惑し、そして結局熱狂してしまう。
『キン肉マン』があるかぎり、我々に安らかな日曜の深夜は過ごせそうにない……!
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog