日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『たそがれの市 あの世お伽話』
『たそがれの市 あの世お伽話』
近藤ようこ KADOKAWA ¥1,100+税
(2017年10月28日発売)
津原泰水『五色の舟』、折口信夫『死者の書』、夏目漱石『夢十夜』といった幻想小説のコミカライズで独自の境地を切り開き、高く評価される近藤ようこ。
『たそがれの市 あの世お伽話』はその近藤の久々となるオリジナル作品。KADOKAWAの怪談文芸専門誌「Mei(冥)」と「幽」に掲載された10話と書き下ろし1話を収録している。
舞台となるのはあの世で死人が集まる市場。知らずに迷いこんだ娘・おいとは、見覚えのない少女に、自分が許婚からもらったはずの化粧用の紅皿を売りつけられそうになる。じつは、少女は死んだ幼なじみのおきくだった……(「第一話 紅の皿」)。
生者が死者から物を買うと命を取られるという決まりのある市で、想いを秘めた死者と生者が交わる。遺してきたはずの子と市でめぐり会った母、市で見事な唐物の器を見つけ、思い出と引き替えに手に入れた若者。ときには現代の津波で流された少女が市を訪れることも……。
生きても死んでも、人間はそうそう変わらない。
死後も生前と同様に商いをし、生活をする死者たちが集う市の開放感と寂寥感が、なんともいえない不思議な風情を醸し出す。市場は何かを交換する場所。
読者もこの作品を読んで、死者に思いを馳せることで何かを得ているのかもしれない。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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