日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『死者の書』
『死者の書』下巻
折口信夫(作) 近藤ようこ(画) KADOKAWA ¥740+税
(2016年4月25日発売)
『死者の書』は、『五色の舟』で第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した近藤ようこの新作。
民俗学の巨人・折口信夫による難解な小説の世界が、どのようにコミカライズされているのか、ページを開いた。
8世紀半ばの平城京。藤原南家に生まれた娘・郎女(いらつめ)は、浄土があるという西に見える二上山(ふたかみやま)を眺めるうち、峰と峰の間にたたずむ、荘厳な阿弥陀仏のような「俤(おもかげ)びと」を幻視し、やがてひとりで二上山へ向かう……。
バラバラに切り離されている原作の時系列を、郎女の生い立ちに寄せることでわかりやすくし、作品世界に引きこむ。
清らかで気品ある郎女の表情、彼女が幻視する異国の救世主を想像させる俤びとの穏やかなたたずまい。こうした表現はマンガならではのプラスαだろう。
基本的に原作に準拠しつつも、最終話では著者独自の解釈も織りこまれ、ただのダイジェストには終わっていない。
本作をきっかけにして原作に挑戦するのもオススメ。そのあとまたこのマンガに戻ってくるのもいい。
奈良時代、戦前、平成。そうした旅もすてきだ。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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