日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『月影の御母』
『月影の御母』
近藤ようこ KADOKAWA ¥860+税
(2015年12月25日発売)
近藤ようこが「おかあさん」を主題に描いた中世怪奇譚『月影の御母』が、16年ぶりに新装版でよみがえった。
旅の途中で母と別れ別れになり、記憶を失ってしまった蓮王丸は、不思議な子猿・ひょん太を道づれに母を探す旅に出る。蓮王丸の前には次々に母を名乗る女が現れるが、彼女らはいずれも物の怪で――。
決して優しいだけではない、怖かったり、おぞましかったり、健気だったり、哀れだったり……。次々にあらわにされる、女たちのさまざまな側面がなんともいえずリアルで、ゾッとすると同時にせつなく、やるせない。
そんな道中の果てに、ようやく出会った「本物のおかあさん」は、じつは「偽物のおかあさん」とさして変わりがなく……といった結末には、「完璧なおかあさんなんていない」「母親とは欠陥だらけの「ただの女」なのだ」といった著者のメッセージを感じずにいられない。
昔話の「継子いじめ譚」の系譜を継承しながらも、ファンタジーの皮膜を現代の「母(女)をとりまく問題」に鋭く斬りこむ、虚実皮膜な味わいはさすが。
唖然とするような切れ味の著者あとがきも含めて、必読の一冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69