このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『月影の御母』 近藤ようこ 【日刊マンガガイド】

2016/02/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『月影の御母』


TSUKIKAGEnoMIHAHA_s

『月影の御母』
近藤ようこ KADOKAWA ¥860+税
(2015年12月25日発売)


近藤ようこが「おかあさん」を主題に描いた中世怪奇譚『月影の御母』が、16年ぶりに新装版でよみがえった。

旅の途中で母と別れ別れになり、記憶を失ってしまった蓮王丸は、不思議な子猿・ひょん太を道づれに母を探す旅に出る。蓮王丸の前には次々に母を名乗る女が現れるが、彼女らはいずれも物の怪で――。

決して優しいだけではない、怖かったり、おぞましかったり、健気だったり、哀れだったり……。次々にあらわにされる、女たちのさまざまな側面がなんともいえずリアルで、ゾッとすると同時にせつなく、やるせない。

そんな道中の果てに、ようやく出会った「本物のおかあさん」は、じつは「偽物のおかあさん」とさして変わりがなく……といった結末には、「完璧なおかあさんなんていない」「母親とは欠陥だらけの「ただの女」なのだ」といった著者のメッセージを感じずにいられない。

昔話の「継子いじめ譚」の系譜を継承しながらも、ファンタジーの皮膜を現代の「母(女)をとりまく問題」に鋭く斬りこむ、虚実皮膜な味わいはさすが。

唖然とするような切れ味の著者あとがきも含めて、必読の一冊だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

  • 『月影の御母』 Amazonで購入
  • 『死者の書』上巻 Amazonで購入
  • 『近藤ようこ初期作品集1 仮想… Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング