日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『美しの首』
『美(いつく)しの首』
近藤ようこ KADOKAWA ¥620+税
(2015年12月25日発売)
近藤ようこの中世日本を舞台にした短編4作からなる作品集の新装版が出た。
大阪城落城の際に持ち帰った男の生首に叶わぬ恋をする女の物語「美しの首」。
戦国時代の名残を残した江戸時代初期を舞台にひとりの女と対照的な2人の青年の生き様を描いた「雨は降るとも」。
厨子王を悪人として描いた「安寿と厨子王」。
源氏物語の「玉蔓」を下敷きにした「玉蔓」。
いずれも不安定な社会情勢下にあり、貧富や男女の差別が絶対的に存在していた時代ゆえの人々の苦悩や、祈りにも似た希望。
世の不条理を嘆き、愛や富や名声を求め、死んでもなお現世の欲に執着せずにいられない人間の愚かしさや哀しさを描くタッチは、あくまで淡白でさらりとしている。
だからこそ、その水面下に潜む生々しい情念がじわじわと際立ってくると同時に、読み終わったあとには、どこか達観したような清々しさを感じさせる。
時代がどれだけ変わっても、人間の苦悩や欲望は本質的には変わらない。
近藤ようこはそれを、ファンタジーのオブラートに包んで差しだす。甘美で儚い味わいにうっとりしていたら、自分に似た姿を発見してギョッとすること必至。
同時発売の『月影の御母』もあわせて、ご賞味あれ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69