『インノサン少年十字軍』 上巻
古屋兎丸 太田出版 \1,200+税
エルサレムをめぐって、イスラム教徒とキリスト教徒が争いを繰り広げていた12世紀。聖地奪還のために立ち上がったキリスト教十字軍のなかで、高名な騎士団に、ヨーロッパ全域に広がったテンプル騎士団がある。
10月13日は、そのテンプル騎士団のメンバーが仏王フィリップ4世によって一斉逮捕された日(1307年)。フィリップ4世の狙いは、強大になりすぎたテンプル騎士団の権力を奪い、その莫大な資産と独自の金融システムを手中にすることだったとされている。
その組織の巨大さと攻撃性ゆえに、ある面では悪名高き存在でもあったテンプル騎士団だが、フィクションとはいえ、さらに非道な姿がかいま見えるのが、古屋兎丸『インノサン少年十字軍』だ。
1212年、フランスの田舎町で子どもたちによって結成された“少年十字軍”。奇跡を起こすエティエンヌを筆頭に、澄んでいるにしろ濁っているにしろ、13名の子どもたちはそれぞれに志を持って、聖地エルサレムを目指して旅に出る。
しかしそのなかでテンプル騎士団と出会ったことが、少年十字軍だけでなく、彼らそれぞれの運命自体も変えていってしまう。
残虐なだけに美しいさまよいの物語は、圧巻のひと言だ。
彼らを何を背負い、背負わされることになったのか。史実において逮捕された騎士団の幹部たちは火刑に処されているが、少年たちを喰いものとした本作におけるテンプル騎士団のユーゴは最後に……!
少年たちの冒険の物語としても、時代のうねりのドラマとしても、引き込まれること必至だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。