『アンの世界地図 ~It's a small world~』第2巻
吟鳥子 秋田書店 \429円+税
(2014年10月16日発売)
竹宮杏、通称・アンは、金髪に染めた髪、カラコン、クラシックロリィタ(クラロリ)に身を固めている。一見外人にすら見えるスタイルで暮らしている少女。
彼女にとってクラロリは辛い日々を乗り越えるための戦闘服。家庭でネグレクトにあっている彼女にとって、ドレスは自我を守るための殻だ。
彼女が徳島の田舎に行って、ひとり住まいのアキと暮らすところから物語は始まる。
おもしろいのは、この作品が「癒やし」だけではないことだ。
アンは徳島に行っても、決してロリィタ服を脱がない。アキをはじめ周囲の人間も、豪奢な服を脱がせようとはしない。察しているからだ。同時に、田舎だからこそのあけすけな言葉で、繊細な心が傷つくこともある。
クラロリ装甲をまとった、心が傷だらけのアンは、「現実」という戦場を歩いてきた。心を蝕むディスコミュニケーションのほとんどは、それぞれが生まれ育った環境から生まれる言葉のすれ違いだ。
2巻では旧ドイツ軍における、地方の言葉遣いの昔話も交え、いかに思いを伝えあうことが難しいかを描いていく。
罵倒の中で生まれ落ちた子は罵倒の中で話し続けてしまう。傷つける側もまた、傷ついている。
苦しみ続け、五感を閉ざして生きてきたアン。ともに暮らすことになった、しっかりもののアキの優しさと厳しさが、アンの閉じた小さな世界を広げていく。
折り合いをつけながら人とどう接すればいいのか。そのヒントをこの作品は与えてくれる。
アンの髪の毛は金髪に染まっている。しかし生え際は、黒い。
クラロリで生きる人生は素敵だ。だが戦闘服だけでは、生きてはいけない。
彼女の「毎朝しあわせな気持ちで起きてみたいです」というささやかすぎる祈り。かなってほしいと願ってやまない。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」