『テキサスレディオギャング』
榎屋克優 集英社 \514+税
(2014年10月17日発売)
前人未踏の音楽マンガ『日々ロック』の作者・榎屋克優が、単行本1冊ぶんのスケールで描く、ラジオと友情についての青春物語。
主人公は、ハーフの高校生で、元いじめられっ子の山本ピーター。「深夜ラジオ」という共通の趣味を持つ友だちのひとりが同級生たちにイジメ殺され、「見て見ぬフリをしていた自分」にさいなまれた彼は、友人がMDに遺していた自作のラジオドラマを発見し……。
おっと、ストーリーについてはこのあたりで。
今まで多くのマンガ作品が果敢に挑戦しつつ、なかなか正解にたどりつけなかった「概念としてのロック」の視覚化に成功した(気がする)稀有な名作『日々ロック』と同様、マンガで伝わりにくそうな「ラジオドラマ」をわざわざ題材に選ぶあたりが、いかにも作者らしい。
巻末には誕生秘話として、作者自身がラジオドラマの世界に初めて触れて「音だけでここまで表現できるとは!!」とのけぞった様子が描かれているが、読者側としては同じように「そんなビビッドな感激をここまで情熱的にマンガで表現できるとは!」である。
「視覚がない」ことを逆手にとり、空想上の西部劇ビジュアルでぐいぐい盛り上げていく骨太な構成から、寺山修司や山田太一の名作ラジオドラマを次々と引用したりするくだりまで、全編を通して作者の「ラジオドラマってスゲェ!」が誠実に伝わってくる。
それにしても作者は、自分の人生の主人公になり損ねたような男たちの悲哀とスパークを描くのがじつにうまい。「男臭さ」というのともちょっと違って、読み終わったときにこっちが気恥ずかしくなるぐらい、ヤボくて実直な「臭い男」たちの物語なのである。
コンパクトにまとまっているので、「榎屋マンガ」入門編としてもどうぞ。
<文・大西祥平>
マンガ評論家、ライター、マンガ原作者。著書に『小池一夫伝説』(洋泉社)、シリーズ監修に『ジョージ秋山捨てがたき選集』(青林工藝舎)など。「映画秘宝」(洋泉社)誌ほかで連載中。