『デスコ』第1巻
カネコアツシ KADOKAWA/エンターブレイン \680+税
(2014年10月25日発売)
法を破る悪党どもの社会にも、暗黙のルールやバランスはある。
むやみにナワバリを広げて勢力争いの火種をまく集団、調子にのって荒稼ぎする闇商売人。そんな連中を処刑するために謎の組織が差し向ける始末人「リーパー」の姿を描くのが、本作『デスコ』である。
リーパー(刈り取る者)。命を刈り取る死神の意味をもつ。
その名を表すように、彼らは不気味な風体でターゲットに忍び寄る。ハロウィンめいたお化け仮装、遊園地のキャストのような着グルミ、ドクロ顔のチアリーダー……滑稽ですらある異形の殺し屋たちが何十人もギャングのアジトに押し寄せて大流血の殺戮パーティーをくりひろげるスペクタクルは必見だ。
主人公はそのリーパーの一員で、自称「デスこ」。道化師のような化粧をしてつんつるてんの黒いワンピースを着た、あどけなさの残る少女だ。
武器は人形に爆弾・ガス・刃物などを仕込んだ、お手製の殺し道具。
「ばあああ! デスこだぞお~~!」とおどけながら標的を追いかけ惨殺する姿には、子どもの無邪気さと残酷さをいっしょに煮詰めた趣がある。
劇中、ギャングの親玉はリーパーに問う。「なぜ俺が?」「なんのためにこんな理不尽なことを?」と。
リーパーはこう答える。「みんなワケも判らず死ぬんだよ」。
暴力をつかって他人から理不尽に搾取する犯罪者へ、それを上まわる暴力と理不尽が襲いかかる。
だれもが平等に、このクソッタレな現実というお化け屋敷のなかで悲鳴をあげることになる。
すがすがしいまでにドライな世界観!
作者のカネコアツシは、筆ペンによる影と輪郭のパリッときいた海外コミック調の絵柄で、1コマ1コマごとイラストレーション的な見ごたえを備えた表現力に定評がある。
とくに初期の長編『BAMBi』は、極彩ピンク色に塗った拳銃を装備した少女が純粋にわがままな子どもの本能だけで戦い生きる旅路をあっけらかんと描いた内容で、『デスコ』はこれと重なりつつも演出カラーの明暗がちょうど対称的だ。両作あわせて読んでみてほしい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7