『アンラッキーヤングメン』第1巻
大塚英志(作) 藤原カムイ(画) 角川書店 1,200+税
1968年の12月10日は、昭和の未解決事件として名高い「三億円事件」が発生した日である。
事件の舞台は東京都府中市。3億円を積んだ銀行の現金輸送車が、白バイ隊員に車を停めるよう指示された。
白バイ男は「この車にダイナマイトが仕掛けられているらしいので、調べさせてくれ」と言いながら、車の下に発炎筒を仕込み、「爆発するから早く逃げろ!」と銀行員たちを避難させる。
そして、自分が空っぽの車に乗りこむと、まんまと逃げおおせてしまったのである。
偽の白バイをはじめ、かなりの遺留品があったにもかかわらず、1975年に時効成立で迷宮入り。
現在に至るまで、真犯人を推理するノンフィクション、そして小説や映画、マンガでもこの事件をモチーフとした作品が数多く生まれている。
批評家、民俗学者、そして編集者、作家という多彩な顔を持つ大塚英志が原作を担当した『アンラッキーヤングメン』は、1968年の東京を舞台に、当時の世相をふんだんに散りばめた作品だ。
青森から上京したNはバイト先のジャズ喫茶で、学生運動から逃げ出し、売れない漫才師をしながら映画制作を夢見るTと知り合い、親しくなる。NはTの映画に出演することを約束するが、Tが書き上げた映画の脚本“アンラッキーヤングメン”は、じつは3億円強奪の綿密なシナリオになっていたのだ!
優男的な雰囲気に似合わず、盗んだ拳銃で4人を殺した経歴を持つNは、三億円事件の直前に起こった「連続射殺事件」の永山則夫がモデルと思われる。Tのモデルはどう見ても北野武だし、2人とともに事件に関わる“洋子(ヨーコ)”は、連合赤軍事件の首謀者として有名な永田洋子を想起させる。
ちなみに、1968年当時、永山則夫と北野武が同じジャズ喫茶で働いていたというのは、ホントの話。
そのほかにも三島由紀夫や中上健次っぽいキャラクターまで登場し……一見シリアスなドラマに見えて、サービス精神満点の一大エンターテインメント作品になっているのがすごい!
昭和40年代の空気感を醸し出すことにこだわった藤原カムイの作画も抜群だ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」