集英社文庫『神々の山嶺』第1巻
夢枕獏(作)谷口ジロー(画) 集英社 \648+税
12月27日は、「山岳界のプリンス」と呼ばれた日本の登山家・加藤保男が、世界初の厳冬期エベレスト登頂に成功した日である。
彼は春・秋・冬の三季登頂に成功した天才クライマーで、「ミスター・エベレスト」の異名を取った。しかし加藤は、冬季登頂成功後、南峰でビバークしたあとから交信が途絶え、そのまま行方不明となる。
エベレストに挑む登山家を題材としたマンガといえば、谷口ジロー作画の『神々の山嶺』だ。原作は夢枕獏の同名小説で、第11回柴田錬三郎賞を受賞している。
クライマー兼写真家の深町誠は、カトマンズ滞在中に古いカメラを入手する。ヴェストポケット・オートグラフィック・コダック・スペシャルという機種で、英国のジョージ・マロリーが1924年にエベレストにチャレンジした際に携行したものと同型であった。
マロリーはエベレスト挑戦の動機を聞かれて「そこに山(エベレスト)があるから」の名言を残した登山家。1924年のアタックの最中に消息を絶ち、彼がエベレスト初登頂に成功したかどうかは謎とされていたが、もしこのカメラがマロリーのものであり、フィルムが残されていたら、登山界の歴史が変わる……。
そうしたミステリー的側面を導入として、深町は、謎の男ビカール・サン(羽生丈二)と出会う。やがて深町は、謎多き羽生の生涯を追いかけていくことになるのであった。
谷口ジローが圧倒的な画力で描き出すエベレストの山々は、まさしく「神々の山嶺」と呼ぶにふさわしい威容を誇る。美しさのあまり、溜息交じりに畏敬さえ感じてしまうだろう。
壮麗な風景のなか、際限なく自分を追い込むクライマーたちのストイシズムがマッチし、これでもかと張り詰めた空気感が醸し出される。羽生丈二のヒリヒリした眼光は、つねに読者の心胆を寒からしめるほどだ。
ちなみに『神々の山嶺』は、平山秀幸監督(代表作に『愛を乞うひと』など)により映画化が決定し、2016年の公開を予定している。
こちらもいまから心待ちにしたい。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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