『惡の華』第1巻
押見修造 講談社 \429+税
本日1月8日は、文学者・堀口大學の生まれた日である。
1892(明治25)年、東京の北郷に生まれた大學は、慶應義塾大学予科に在学中から永井荷風らと親交を持ち、みずから詩作をするだけでなく、フランス語の詩を数多く翻訳し、日本に紹介した。
ジャン・コクトーやアンドレ・ジイドなど、数多くの翻訳を手がけたが、なかでも有名なのはシャルル・ボードレールの詩集『悪の華』ではないだろうか。
ボードレールの『悪の華』が登場するマンガといえば、昨年完結した押見修造『惡の華』だ。
思春期特有の鬱屈を溜め込んだ中学生・春日高男は、ある日の放課後、憧れのマドンナ・佐伯奈々子の体操着を盗んでしまう。それを同級生・仲村佐和に目撃され、背徳的な行為を強要されるなかで、自意識と自己嫌悪に苛まれていく。
作中、主人公・高男の愛読書としてたびたび登場するのがボードレール『悪の華』なのだが、これは新潮文庫版、すなわち堀口大學訳のものである。
難解なものを、さも理解しているかのような口ぶりで佐伯さんに話す高男の姿を見て、痛々しい気持ちになりながらも「あるある」と苦虫を噛みつぶしたように微笑んだ文系男子は数多いことだろう。
そして物語後半、成長した高男がふたたび『悪の華』を手に取るシーンがあるが、ここで描かれるのは阿部良雄訳版(ちくま文庫)。1998年に新訳されたもので、100年以上前に翻訳された堀口版に比べてはるかに誤訳が少なく、また平易な言葉を用いているので読みやすいし、内容を理解しやすい。
両者の違いを読み比べながら、押見版『惡の華』にどのような影響を与えた作品なのか思いをめぐらせるのも、楽しみ方のひとつである。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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