『ハルロック』第3巻
西餅 講談社 \560+税
(2015年1月23日発売)
電子工作が大好きな女子大生が、隣人や同級生を巻きこんで珍発明をするというちょっと変わった本作品。
全体的に、電子工作のマニアックな部分については省略して描写するようになっているので、ド素人が読んでも楽しめるようになっているところがすごい。
おもにヒロインである晴(ハル)の珍発明やちょっとズレた感覚が楽しいギャグ路線なのだけれど、良質なギャグマンガがだいたいそうであるように、本作もまた、読者を単に笑わせるのではなく、キャラの立った登場人物たちによる人間ドラマが徐々に描き出されている。
最新刊となる第3巻では、ハルを含めた登場人物たちが目先の「発明」を巡ってドタバタする段階から、それらの「発明」とどうつきあっていくのかという次のステップへと進み始める。
周囲の大学生たちが就職活動を意識する時期になり、ハルも進路に悩む。
電子工作を趣味として割り切り、普通の会社員として生きていくのがいいのか、それとも……起業?
次巻以降では、もしかしたらこれまでの路線とは打って変わってビジネスの厳しさと戦うハルたちの姿が見られるのかもしれない。いや、それとも連載開始前の読み切り版に登場したようなすっとぼけた「会社」が作られていく展開なのかも。それはそれでおもしろそう。
それにしても、小学生・高校生・大学生、高校教師や大学生・大学院生、そして子どもたちの親を含む様々な「大人」といった多様な社会層に属する人々がバランスよく登場して、それぞれの立場ならではの活躍をする。
悪意のないのんびりとした世界でありながら、立場の違いから意図がすれ違うことで、電子工作という無味乾燥と思われてしまうかもしれない題材を扱っているのに、作品からは濃厚な人間臭さが感じられる。
特に、『東京トイボックス』が好きな人たちなどには(全員もう読んでるかもしれないが)、強く強くオススメしたい。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books