『プリキュアコレクション ハートキャッチプリキュア!』
東堂いづみ(作)上北ふたご(画) 講談社 \950+税
(2015年2月6日発売)
本作の主人公は「最弱のプリキュア」である。
東映アニメーションの看板女児向けアニメ『プリキュア』シリーズを、上北ふたごが描くコミカライズ作品群『プリキュアコレクション』。
刊行開始から3カ月目となる、待望の2月ラインナップは『Yes!プリキュア5 GoGo!』、『フレッシュプリキュア!』、そして本作『ハートキャッチプリキュア!』からなる。
前回、日刊マンガガイドでも紹介した同シリーズの『Yes!プリキュア5』は、恋を筆頭に、「プリキュア部」を結成した少女たちの日常を濃密に描く、かなりオリジナル色の濃いものだった。
しかし今回の『ハートキャッチプリキュア!』は一転、細かな違いこそあるが、話の大筋はアニメ本編とほぼ同じ。いわゆる“ダイジェスト版”と位置づけられるものだ。
昨今の女児向け作品の主人公といえば、ドジであったり勉強が苦手であったりと世話のやける一方で、いざという場面では仲間を率い、時には導くリーダー格として描かれるのが定石だろう。
ところが本作の主人公・花咲つぼみ(キュアブロッサム)はそうではない。勉強は得意なのに、とにかく気が弱く、本来ならば身体能力が飛躍するはずのプリキュアに変身しても、パワーをうまくコントロールできず、敵からは「足でまとい」と嘲笑される。彼女はそんな自分から「変わりたい」と願いながらも、「小心者の自分がキライ」とうつむく。
つぼみを囲うプリキュアの仲間たちもまた、自分に引け目のある者として描かれる。
来海えりか(キュアマリン)は、まるでつぼみとは正反対のように快活に、多彩な表情で紙面を動きまわる。しかし彼女もまた、完璧な姉と比較されるコンプレックスを抱え、他人の目に怯え自信を見失っている。
明堂院いつき(キュアサンシャイン)は、生家の営む武道に邁進するため、と男らしく振舞いながらも「女の子らしく、本当に好きなかわいいものに身を包みたい」という本音に蓋をしている。
つぼみたちの先任のプリキュアである月影ゆり(キュアムーンライト)は、敵に敗れたことで大切なパートナーを亡くし、プリキュアの道が断たれるという凄惨な過去を背負い、後悔に苛まれる。
自分が嫌い。自分を信じられない。自分の心に正直でいられない。挫折した過去の自分から抜け出せない。
それぞれ自分の殻から抜け出せずにいた4人は、プリキュアとしての使命のなかで「自分を許す」心を会得していく。しかしそれも束の間、敵との最終決戦のさなか、4人は自らの心に巣食う、ある感情に直面する。
「他人を許せない」という、憎悪である。
他人と触れ合うことで陽の光の下に出られた少女たちは、他人を知ることで、また自分の負の側面と向き合わざるをえなくなるのだ。
そう、『ハートキャッチプリキュア!』のストーリーは、かわいらしくデフォルメされたタッチからは想像もつかないほどに重い。
本作の主題は、タイトルにもあるとおり「心」だ。この抽象的な題材を、上北ふたごはその画力を駆使して描ききる。重厚な物語に耐えるほどの力強い筆遣づかい、それでいながら少女マンガの枠を外れない甘い絵柄。これらが絶妙に構築され、単なるダイジェストでは終わらない、マンガとして高い完成度に達している。
最終話、敵なんか理解したくもない、と怒りを振りかざす仲間たちを、つぼみは制止する。つぼみがここにきてはじめて仲間たちを導く主人公として描かれ、「今こそ変わりたい」と立ち上がる、マンガ版でしか描かれないコマは圧巻の一言。
小さな種が満開に咲き誇るその瞬間を目にした私たちは、こう気づく。
本作の主人公は「最強のプリキュア」である、と。
<文・ちょうあゆ>
編集。「私も変身したい」と願い続けること二十数年、叶う気配はいまだなし。あきらめる気配もいまだになし。