『鵼の絵師』第1巻
猪川朱美 朝日新聞出版 \680+税
(2015年2月6日発売)
彼に肖像画を描かれると死ぬ。彼が死んだ人間を描くと蘇る。
怪しいウワサが飛び交う画家の菅沼英二郎。彼のもとには次々とワケありの人間がやってくる。
英二郎につけられたアダ名は「鵼の絵師」。
絵は時に、本物以上に感情を表現するものだ。
菅沼は生者を殺す力も、死者を蘇らせる力もない、ひとりの画家だ。
しかし彼が描く死者の絵が、依頼者の感情を喚起し、心のわだかまりを解いていく。
うまくいかなかったまま死んだ旦那の絵。
幼いころ早くして死んだ息子の絵。
幽霊屋敷と呼ばれた家に住みついていると言われる霊魂の絵。
舞台になっているのは昭和初期。なのでモデルとなる死者の写真などはほとんど残っていない。
依頼者からの情報をもとに、パーツのつぎはぎをしてできるだけ似せていく。いわばモンタージュ画家。
様々な動物の組み合わせである「鵼」。
彼がつぎはぎで、本物に近い故人の絵を描く能力に長けていることを意味している。
彼のモンタージュ画は、大切な人を失った多くの人の心を救っている。と同時に、菅沼が普段から描いている絵は、どっちつかずで空っぽになりがち。
これもまた彼が、曖昧な存在である「鵼」と呼ばれる理由のひとつ。
死者と向き合う人々の物語と、菅沼の画家としての成長を描くオムニバス作品。
肖像画を描くということは、その人の人生に触れることだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」