『失恋ショコラティエ』第9巻
水城せとな 小学館 \429+税
(2015年2月10日発売)
ひとつの神話が完結した。
水城せとな『失恋ショコラティエ』である。
人の心の動きを克明に描き、全国の恋愛脳男子女子を阿鼻叫喚に追いこんだ本作だが、かなり意外な結末だと思った読者も多いのではないだろうか。
主人公の爽太君は、名前のとおり爽やかな失恋をとげ、本作のもうひとりの主人公とも呼ぶべきサエコさんは最終的に「勝ち組」に留まる。
かといって、肩すかしな印象はない。それぞれがナルシスティックでありながら、相応の(大小の差こそあれ)罰を受け、苦しみを舐め、それでもしたたかに生き延びていく。
自分を傷つけた相手に、許されないし罵倒されることもわかったうえで謝りにいく爽太が、甘んじて受ける叱咤は、作中の登場人物たちだけじゃなく読者の胸にも響く。
その痛みをマゾヒスティックに味わうだけではなく、我が身を振り返って恋愛脳を反省し、幸せに生きていくことができるなら、自分もまた大人になったと思っていいのかも知れない。
……でも、そんな悟りきった態度、本書を楽しむには邪魔なんじゃないだろうか。
チョコレートをつい食べすぎてしまうみたいに、爆発する妄想を楽しんで、すれ違う気持ちの痛みを楽しんで、痴話喧嘩すら楽しんでしまう、そんな作品だったと思う。傑作。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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