『流転のテルマ』第2巻
蔵西 講談社 \560+税
(2015年2月9日発売)
これほどチベットの風土、匂い、手ざわりが感じられるマンガは、探したってそうは見つからないだろう。
明治時代、鎖国中のチベットに潜入を果たした日本人僧・河口慧海の名著『チベット旅行記』をふと思い出した。
『流転のテルマ』は、チベットを舞台にした冒険マンガ。主人公の大学生・徳田徳丸が、インドを経て西チベットに入った兄から、「助けてくれ」というメールを受けとったことで物語は始まる。
やむなく現地へ降り立った徳丸は、兄が外国人入域禁止エリアにあるヌン谷にいたことを知る……。
天文部出身の草食系男子・徳丸、イケメンガイドのソナム、童顔のキッチンボーイ・ナムギャル、男3人が不吉な言い伝えのある奥地の谷へむかう。
最新刊2巻では14世紀の壁画が残る洞窟で、野宿し、温泉に入り、美しい夜の虹に遭遇するものの……。
登場人物はみなワケありで、なんらかの過去を抱えている様子。その謎めいた空気が、チベットの神秘的な雰囲気と重なりあって、じつにミステリアスだ。
1巻のあとがきによると、作者は卒業旅行でチベットに行き、空と大地、壁画、人々に圧倒され、チベットにハマったという。そんなチベット愛がコマの端々から伝わってくる。
もし、チベットに少しでも興味があるなら、このマンガで間違いはない。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でライトノベル評(ファンタジー)を連載中。
「The Differencee Engine」
編集部より
弊社主催のマンガ新人賞「『このマンガがすごい!』大賞」に応募していた蔵西氏。応募者のなかでも、その緻密な画力で審査員から高い評価を得ていました。
描き込まれたチベットの風景と人物描写は、「『このマンガがすごい!』大賞」応募時から、さらに進化をとげています。ぜひ『流転のテルマ』の圧倒的な世界観をお楽しみください。