『明治異種格闘伝 雪風』第1巻
内田康平 講談社 \429+税
(2015年2月9日発売)
舞台となるのは、大政奉還によって“武士の時代”が終わりを告げ、いわゆる文明開化によって急速に近代化がすすんでいた明治19年。
史実のうえでは日本がメートル条約に加盟(国内でのメートル法施行は明治24年)し、さらに日本初の電力会社である「東京電燈」の企業活動が開始され、西洋文明、とりわけ電力や鉄道が人々の暮らしを大きく変えていこうとしていた時代である。
しかし、そんな世の流れと逆行するかのように、「個の肉体」に磨きをかけ、「武」を極めようとする者たちも当然ながら存在していた。
そして旧相模柴原藩の領主であった柴原典膳公爵は、ある謀略のため、そして「命のやりとりを渇望」という嗜好をみたすために、「御前試合」と称して“無刀による殺しあい”を、なかば脅迫同然に闘士を集めさせてとり行おうとしていた。
家臣のひとりである櫻木源右衛門は、その善良な性根ゆえにいまだ“駒”をみつけられていなかったのだが、浪人崩れの無頼の輩を、見たこともない挙動と素手のみで倒してしまう青年・雪村風太郎と出会う。 その不思議な武術とは、彼がアメリカで習得した「ボクシング」であった。 当初は御前試合になどまるで興味を示さない風太郎だったが、出場者の中に父を死に追いやった仇のひとりをみつけ、参加を決意する──。
とまぁ、身も蓋もないことを言ってしまえば「無刀の『シグルイ』」ではあるのだが、時代設定の妙が、拳や体術による異種格闘技のトーナメントをグッと盛りあげている。
最初に風太郎と対戦するのは、最強の横綱である天鵬。あまりの強さに相撲の試合で彼だけが使用を禁じられてしまった「張り手」は、パンチ力に換算して約562kg。
まさに「当たったら死ぬ!」という攻撃に加え、脊髄を破壊する「鯖折り」、さらにボクサーにとってはもっともおそろしい「閂(かんぬき)」を開放して、いきなりガチの“死合”が展開!
緊張感と狂気にみちたぶつかりあいは、今後の対戦にも興味がつきない。
「これこれ、こういう“ひたすらバトル”ってマンガが読みたかったのよ!」という人には、間違いなくオススメの一作だ。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。