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『天体戦士サンレッド』第20巻 くぼたまこと 【日刊マンガガイド】

2015/03/14


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『天体戦士サンレッド』第20巻
くぼたまこと スクウェア・エニックス \532+税
(2015年2月25日発売)


2004年に雑誌「ヤングガンガン」が創刊されたときから連載されていた『天体戦士サンレッド』が、とうとう完結となった。

「世界征服をたくらむ悪の組織とその怪人と戦う正義のヒーロー」というテンプレートだけを忠実に守りながら、「悪の組織がすごく庶民的だったら」とか「正義のヒーローがヒモだったら」という脱力感たっぷりの“if”をブチかましてくる。

タイトルにもなっているヒーローである「サンレッド」は、悪の組織フロシャイムの怪人たちに命を狙われていた。
だがサンレッドの強さは圧倒的で、フロシャイムがいくら強力な怪人を用意してきてもほぼパンチ一発で倒してしまう。
サンレッドはそのワンパターンに飽き飽きしており、もう襲いに来るなとフロシャイムの幹部や戦闘員もろとも怪人をその場に正座させて説教をたれるのだが、その姿は普通のチンピラである。

サンレッドのチンピラっぽさは筋金入りで、タバコを吸ったりパチンコに行ったり仲間とじゃれたりする様子は、生半可なヤンキーマンガよりもリアルである。
はてはこのサンレッド、前述のとおり「ヒモ」なのである。保険の営業をやっているというOLの「かよ子」の家に転がりこみ、ささいなことで喧嘩をしたり仲直りをしたりしながら暮らしている。このかよ子とのやりとりも、またえらくリアルなのだ。

フロシャイムのほうの庶民っぷりもすごい。
フロシャイムの幹部であるヴァンプ将軍は、サンレッドとともに町内会の会議に出席し、サンレッドがペットボトルを分別しないことで隣人に責められるのに対して、ちょっとした手間を惜しまないことできちんとルールを守れるようになるという自説を展開。悪の組織の幹部としてそれでいいのかと、サンレッドをイライラさせたりする。
このヴァンプ将軍は料理上手で、作中でもたびたびかよ子さんと料理談義に花を咲かせるのだが、一話完結の各話のあいまに挟まれているコーナー「さっと1品」はヴァンプの得意料理のレシピである。これがじつに簡単そうで、それでいておいしそうなのだ。この部分だけ集めてレシピ本として出版してほしいくらい。

そんな本作もとうとう連載10年を経て完結である。
初登場時と比べてかよ子が異常にかわいくなっている以外は、登場人物たちはあまり変化していない(最初のころと比べるとサンレッドとフロシャイムが仲良くなっているような気もするけれど、基本的にはやっぱり対立している)。
最終話は衝撃の展開ではあるのだが、「正義と悪の戦い」ってなんだったっけというか、その「戦い」が日常に敗れ去り馴致されていく過程を味わうために、あらためて本作を読み直してみるべきタイミングなのかもしれない。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn

単行本情報

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