『こいいじ』第1巻
志村貴子 講談社 \429+税
(2015年3月13日発売)
甘くて苦くてくせになる作品群で人気を集める、志村貴子の最新作。
下町の銭湯「すずめ湯」のまめは、子どもの頃からずっと幼なじみの聡ちゃんに片想いを続けている。
何度も告白してはフラれ続け、すでに聡ちゃんは結婚して子供もいて、まわりも次々に結婚していくのに、それでもあきらめきれない恋。
――って、ここまで来ると、なるほど恋というより恋意地!? なのだが、やわらかで淡々とした画風と語り口に健気かつ謙虚なまめのキャラクタもあいまって、がぜん温かな目で見守りたくなってしまう。
聡ちゃんの奥さんの春さんに、まめの姉のゆめ、聡ちゃんの弟のシュン、まめのおさななじみで元彼のきょーいち……。言葉や表情には表れない登場人物の深層に横たわる心理をそっとすくいとってみせる、あたたかで繊細な手つき。
ともすればドロドロしかねない、半径1キロ範囲のなかでのフクザツすぎる人間模様も、むしろファンタジーのように心地よく甘やかに描いてみせるのは、さすが志村貴子!
相手はもちろん、家族や友人や近所の人にもバレバレの片想いって、冷静に考えるとスゴイが、嫉妬とか束縛とか裏切りといった恋愛の地獄絵図は「両想い」ゆえの産物なわけで。
一方通行ばかりで、なかなか交わらない人々の想いに「両想いの奇跡」を噛み締めると同時に、恋愛には至らないが、「?」のない思いやりと愛情で結ばれた兄妹のような2人の関係を見るにつけ、両想いばかりが幸福な人間関係じゃないよなーと目からウロコが落ちたり。
成就しないからこそ永遠に続く、片想いという甘く苦い時間。
これは「恋愛モノ好き」ならずとも、ハマっちゃいます。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて『おんな漫遊記』連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69