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【ロングレビュー】思春期少女は“ヒトに言えない”ワタシと向き合う 『娘の家出』第1巻 志村貴子

2014/07/23


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『娘の家出』第1巻
志村貴子 集英社 \600+税
(2014年5月9日発売)


人が人を好きになる。そんな抽象的な言葉には誰も反対しないだろうけど、本作に登場するひとつひとつの恋愛は、いやというほど生理的かつ具体的だ。面食いだったりマッチョ好きだったり、その人の自我とはあまり関係なく、「そんな人が好きなように生まれてしまったから」としか言いようがないところがある。

非現実的でぶっ飛んだ世界観を設定していても、恋愛については臆病なほど保守的な作品も世の中には多い。自動車でいえばギアの1速と2速を行ったりきたり、キスか告白でゴール。そこから先の道のりがはるかに長いというのに。

それに対し、志村貴子の作品は、いつもトップギアから始まる。女の子になりたい少年が学ランを着たい少女と惹かれ合う『放浪息子』は、性別やヒゲが生えるなど成長する体に悩みはするが、告白はあっさり。
『青い花』も従姉妹との肉体関係を通過したあとからスタートで、女子同士やら男女やらのあれやこれや。

母の再婚にモヤモヤを抱えたまゆこは実父と彼氏のしんちゃんが暮らす部屋に“家出”する。冒頭からデブ密度高めなのも、のちの展開への大きな前フリだ。

母の再婚にモヤモヤを抱えたまゆこは実父と彼氏のしんちゃんが暮らす部屋に“家出”する。冒頭からデブ密度高めなのも、のちの展開への大きな前フリだ。


志村作品のすごさは、共感しにくそうな“好き”を持つ主人公を設定したうえで、彼らの“好き”に読者をうなずかせることだ。日常生活ではざらつきを感じそうなマイナーな性癖なのに、ページをめくることで肉体から離れた読者の心はそれを「そうそう」と優しく見守れる。だからマンガってすばらしい。

ただいまーと帰ってきたおっさん。出迎えるのは太めでハゲのゲイ、そして女子高生のヒロイン。
「ママとケンカでもしたの?」
「再婚するの」
ああ、このおっさんはヒロインの父親なのね……オカマは父親の彼氏さんで、ヒロインのママとの離婚の原因になったのね……と頭では飲み込めるが、感覚はなかなかついていかない。でも、淡々とこの一話を読み終わる頃には、喉に異物のようにつっかえたこの違和感が、すっと胃の奥に消えている。ちょっとすごい。


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単行本情報

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