今回の『娘の家出』は、両親が離婚経験のある少女たち「チーム離婚」の4人それぞれの物語が展開されるオムニバスもの。
恋愛的には一種の極限状況が設定される志村作品だが、短編として、毎回仕切りなおされるだけに、ヒロインごとの状況に毎回驚かされる。
1話のまゆこなんて太った子が大好きで、デブの体に布団の上から下着姿でのしかかり(肉布団!)「デブ専のデブなんてマジきもい」と自傷じみた言葉まで吐いてしまう。そしてママの再婚相手もデブで、一目惚れした瞬間に失恋した相手……人生の難易度がベリーハードである。
まゆの従姉妹のゆりは赤ちゃんできたら結婚許してくれるかな……と言われてビビるフリーターの彼氏と駆け落ち未遂。ちなみに、タクシーですっ飛んできたママも家庭崩壊して店のお客と破局しそうな恋愛中だ。
1話ごとに独立した話のため、時系列がドカンと飛ぶのもこの作品のおもしろさ。
第3話のどこかで見た面影のあるヒロインがじつは……など数十年単位で遡るものもあれば、まゆの母親がパパとの出会いから別れまでを回想した「おばさんが主人公」もあり、次は誰の話でいつの時代か想像もつかず振りまわされる。
現代でも、フツーに登場したまゆの彼氏とのエピソードがのちに語られるなど、パズルのピースが次々と埋まっていく楽しみがある。
ストーリーの急加速に慣れてきたつもりだった第6話で、さんざん「チーム離婚」から恋の話を聞かされた可夏子の身の振り方には、「そ、それはー!」と唸らされるだろう。
少年少女の成長や彷徨をじっくり追った大河ドラマ的な『放浪息子』もよかったが、ほぼ1話完結で危なっかしいピースをジェンガのように淡々と積み上げていく作者の手つきはやはりウマい。淡々としているようで、『娘の家出』は志村貴子作品のなかでもトップスピードの暴走車だ!
『娘の家出』著者の志村貴子先生から、コメントをいただきました!
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』(太田出版)『超ファミコン』(太田出版)など。