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『漫画版 野武士のグルメ』第2巻 久住昌之(作)土山しげる(画)【日刊マンガガイド】

2015/04/07


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『漫画版 野武士のグルメ』2nd
久住昌之(作)土山しげる(画) 幻冬舎 \1,200+税
(2015年3月14日発売)


近年は『孤独のグルメ』『花のズボラ飯』で改めて大注目されている久住昌之と、『極道めし』『喧嘩ラーメン』など、男臭いグルメマンガを極める土山しげるという、「食」には一家言あるふたりが奇跡のタッグを組んだ本作。
その待望の第2巻も、平たく言えば「おっさんがメシを食ってるだけ」なのだが、これがやっぱりいいんです!

ご存じない方のために先に言っておくと、この作品は「野武士が食べ歩くマンガ」ではありません!
本作は、もともとは久住昌之の食コラムだったものをベースに、架空の主人公を設定したうえで、脚色・再構成した作品(なので、タイトルにわざわざ「漫画版」と入っている)。
こちらの主人公は、35年間会社勤めを続け、60歳で定年を迎えた香住武という名の普通のおじさんで、ほかの土山しげる作品のキャラのようなアクの強さは皆無。

そして「野武士」はなんなのかといえば、あくまでも彼が生き方としてあこがれているだけの存在。「こんなとき、野武士ならどうする?」と、若干妄想入った感じでおじさんの脳内に登場するのだ。
なにせ、本人はじつのところ、わりとひと目を気にする常識人。しかし、何か中途ハンパなことや煮えきらないことをやりかけると、脳内野武士に思いをはせ、本人的には「野武士らしい行為」を貫く……といった具合だ。
ただ、その過程を見てる読者からすれば、まぁ正直カッコいいとは言いがたい。でも、そんなホントは小心者のおじさんの自己満足っぷりこそが、本作ならではの味わいなのだ。

特に今回紹介する第2巻の「野武士のライスカレー」のエピソードなどで顕著なのだが、まったくスマートさに欠けているキャラ(そしてその自覚はほぼない)なのが、じつにリアル。
決まった手順通りに作らなかったためにマズくなってしまったキャンベルスープを、どうにかするため思いつきでカレーに変更するのだが、これが「泥縄」としか言いようがない行き当たりばったりの手順の悪さ!
ほかにも立ち寄ったイタリアンレストランで「とりあえずビール」をやってしまったうえ、笑われているのではないかとやたら気にしたり、ホットケーキのエピソードでは余ったホイップクリームをコーヒーに浮かべてウインナーコーヒーにし、「うーん、リッチリッチ 100円ぐらい浮いたぞ」と、まったくリッチじゃないことには気づかず悦に入っていたり……。
これに比べると『孤独のグルメ』の井之頭五郎は、かなりファンタジーが入ったウルトラスーパーデラックスおじさんに思えてくる。

というわけで、『野武士のグルメ』は当然のようにグルメマンガではあるのだが、「ふつうのおじさんというめんどくさくてカワイイ生き物」をきわめて客観的に描いたマンガとしても楽しめる。
そして、最終的には「まぁ、本人が満足ならそれが一番だよね」と、なんとなく開放的な気分になれるマンガだ。食に限らず、結局は「自己満足最高!」なのである。



<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。

単行本情報

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