『猫瞽女 -ネコゴゼ-』第1巻
宇河弘樹 少年画報社 \575+税
(2015年3月16日発売)
少年・青年誌の主流ジャンルになっている、ファンタジー系アクション。そのなかでも、ひと味違う作品を送り出しているのが、少年画報社の「ヤングキングアワーズ」系列だ。
いい意味でマニアック、かつツウ好みする歴史や神話、オカルト体系を緻密に設定に盛りこんだ、知的興奮、体的興奮にあふれる作品が多いのが特徴だ。
ただ、それだけではマンガのおもしろさにはつながらない。
世界観とモチーフに留まるのみでは、読ませるマンガにはなっても、見せるマンガ──さらに言えば魅せるマンガにはならないからだ。
「アワーズ」発の人気作である平野耕太『HELLSING』や『ドリフターズ』もそうだが、バトルにしろ、人間ドラマにしろ、そこに目も心も奪うアクションがあってこそ魅せるマンガと言える。
兄弟誌「ヤングキングGH」連載中の本作『猫瞽女-ネコゴゼ-』も、まさに魅せてくれるマンガだ。
作者は、宇河弘樹。「アワーズ」掲載の前作『朝霧の巫女』は、それこそ歴史や神話、オカルトのモチーフやエッセンスを下敷きとしたファンタジーだったが、今作はそうした要素に加え、より活劇色の強いものとなっている。
舞台は1950年代の架空の戦後日本。敗戦を経て、「長らく信じてた神様」は縛り首となり、国はソ連によって占領されている。
推し進められる、共産主義化。そんななか、反体制の資本主義の商人たちが、秘密警察の「執行人」によって次々殺される事件が起きている。
まさにその必罰執行に居あわせることになる、はぐれ瞽女(三味線での唄謡いを生業とする旅回りの盲女)の夜梅と、寺小姓の少女・鶯。
執行人を斬ったことで、夜梅と鶯は秘密警察から狙われることになるが、一方で瞽女集団から離脱した夜梅は、かつての仲間たちからも命を狙われている。また鶯は、里親と兄の仇を追ってもいて……。
盲女である夜梅の眼となる鶯と、非力な鶯の力となる夜梅。2人の関係性とかけあいは、手塚治虫『どろろ』も彷彿させる。そしてその背後にある、さまざまなモチーフ。
アクションものということでは疾走感溢れるが、同時にかなり濃く深い作品だ。また特筆すべきなのが、これが人間たちの物語ではないということ。タイトルに躍るのは、“猫”。
そう、人間の世界とか重なる様式、姿、風俗で物語も人物も描かれるが、これは猫たちによる猫の世界の物語なのだ。そのため登場キャラクターには、“猫耳”がついてる。
しかし、『朝霧の巫女』が三姉妹の少女巫女というモチーフを扱いながら、たんなる萌えマンガではなかったように、本作もそこを軽く飛び越える。猫耳もまた伝奇的な装置として回収されていく。
むしろアクションと世界観のハードさで言えば、萌えではなく燃え。アクションやドラマシーンの絵柄は、かなり劇画的なものにもなっている。
さまざまなモチーフを煮こんで語られる、見たことも触れたこともない活劇。
本作は、さらにその先をいく新機軸のものとなっていきそうだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。