『かぶく者』第1巻
デビッド・宮原(作) たなか亜希夫(画) 講談社 \524+税
1714(正徳4)年旧暦1月12日、徳川七代将軍家継の治世。
家継の生母・月光院が右腕とたのむ大奥御年寄・江島が歌舞伎役者の生島新五郎と“遊んで”いるうちに門限をオーバー、幕府の裁判機関である「評定所」にて審理にかけられることとなった。
ことは大奥内部での勢力争いや幕閣での政治闘争もからんできて、沙汰が下ったのは旧暦3月5日、つまり4月18日だった。
最終処分は、江島が信州(現在の長野県)高遠藩へお預け、生島は三宅島へ遠島となる。
生島については、後に暴れん坊将軍こと吉宗により赦免されたとも、三宅島で一生を終えたともいわれる。
当時を代表する歌舞伎役者のスキャンダルは、真偽はともかく政争の格好の道具とされてしまった感があるが、じつはその生島新五郎には子孫がいて……というのが『かぶく者(もん)』の世界設定だ。
主人公・市坂新九郎は血統もない下っ端の歌舞伎役者。
振舞いも傍若無人で行儀品格にこだわる花柳界の鼻つまみ者だが、ご見物(=観客)の心をつかむイコール「かぶく」才能だけは群を抜いている。それもそのはず、新九郎は生島新五郎の末裔なのだ。
新九郎の破天荒な言動は、やがて歌舞伎界にも新風を吹きこんでいく。
しかしながら文字どおりストリートから成り上がった新九郎が『四谷怪談』に挑戦し、大成功をおさめた時点で、この物語は急速に幕を閉じる。
……いわゆる「第一部・完」である。第二部は、ない。
新九郎の、ハラハラさせながらも痛快な横紙破りをもっと見ていたかった気もするし、名門に生まれながら新九郎に心を乱されてどんどん自己をむきだしにしていく歌舞伎役者たちもチャーミングだった。連載当時、終了はただただ、残念であった。
ここは無理を承知で「第二部、乞うご期待!」と言っておきたい。
<文・富士見大>
編集プロダクション・Studio E★O(スタジオ・イオ)代表。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、「月刊ヒーローズ」(ヒーローズ)ほかに参加する。