このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

『かくかくしかじか』第5巻 東村アキコ 【日刊マンガガイド】

2015/04/21


kakukakusikajika_s05

『かくかくしかじか』第5巻
東村アキコ 集英社 \743+税
(2015年3月25日発売)


今もっともノってる漫画家といってもいい、東村アキコの自伝作として、多方面から注目を集めていた『かくかくしかじか』が、ついに完結!

「東村版『まんが道』」であると同時に、「先生」との恋人とも家族とも友人とも違う、愛憎相半ばする濃密な関係を描いた「師弟モノ」でもある本作。
前巻の時点で、悲しい結末への予感はじゅうぶんにただよっていた。最終巻ではそこに至るまでの日々が、現在の著者によるざんげの告白ともとれるような形で克明につづられてゆく。

若さとは、いつだって傲慢で欲深くて薄情で、自分のことでいっぱいいっぱいで、後になってから自分が当たり前に享受していたものの大きさに気づくわけで――。

著者はそんな自身の愚かしさを、あふれ出る記憶をそのまま紙にたたきつけるように、美化も正当化もせず、さらけ出してみせる。
その淡々としたすごみあふれる筆致が、読む者の心をグサグサと突き刺さし、ラストまでイッキに読ませ、心をとらえて離さないのだ。

作中、執拗に繰り返される「描け!」という言葉が、最後には「生きろ!」という叫びに聞こえてくる。これはマンガの形をした、今どき稀有な「純文学」だ。
若者が読むべき1冊として後世に受け継ぐべき名作であり、作家が「描くことの意味」を言及したという点では、著者にとって作家開眼作ともいえる記念碑的作品。

「東村アキコって、女が読むマンガやろ?」とスルーしていた男性諸君も、ここにこめられた作家の魂に震え、打ちのめされて下さいっ!



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

  • 『東京タラレバ娘』第1巻 Amazonで購入
  • 『海月姫』第15巻 Amazonで購入
  • 『ママはテンパリスト』第4巻 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング