『キングダム』第1巻
原泰久 集英社 \505+税
のっけから申し訳ないことだが、本日・5月5日は中国において非常に縁起の悪い日だとされている。
その音韻から5月5日を「悪月悪日」と読むほか、いくつかの歴史的事情があるのだが、これを象徴する事件が“屈原の入水自殺”である。
屈原は、中国戦国時代に存在した楚という国の政治家にして詩人。王族につながる名家の出で詩文の才あふれた屈原は外交官として主君・懐王に仕えていたが、その剛直さゆえに政治の表舞台から遠ざけられた。
ことごとく献策を退けられた屈原は「絶望した! 楚の将来に絶望した!!」と、長江(揚子江)の支流のひとつ・汨羅江(べきらこう)に石を抱いて死のダイブを敢行。
彼の悲壮な決意と血涙あふれんばかりの憂国の志をうたった漢詩「離騒」は後世の国士に愛されたという。
さて、そんな屈原を疎んじた懐王だが、まんまと秦に踊らされたあげくに幽閉されて無念の死をとげる。
対して調子を上げてきた秦は破竹の勢いを続け、紀元前3世紀には中国全土を統一する。
この時の秦王がエイ政、のちの始皇帝である。
原泰久の『キングダム』は、秦王・政の即位直後と思われる紀元前250年前後、大将軍を目指す少年・信と出会った政が中国統一を目標に掲げる戦国時代末期を描いている。
直情径行で格上の相手にも平気で挑みかかり、尊敬する将軍・王騎のもとで一軍の将としての資質を磨く信の成長と、不遇の少年時代から五感を喪失するほどの人間不信を胸に王道を歩む政の成長……『キングダム』はこの2人の成長譚をダイナミックかつロマンチックに描く。
最新第38巻では、信が「五千人将」に昇格、いよいよ将軍へあと一歩というところにたどり着く。
一方の政は「加冠の儀」を迎え、そこに副題にある“新しい国”がからんでくる。
2人のターニングポイントとなるエピソードだけに、ここまで一気読みしていただきたいところである。
さて、屈原に話を戻そう。
入水自殺をとげた屈原をいたむ人々は、彼の無念を鎮めるためと、魚たちがその亡骸を食い荒らさないようにとの思いをこめて、笹の葉で米飯を巻いたものを川に投げこむようになったという。
……懸命な方はお気づきだろう。
そう、これが端午の節句に食べる「ちまき」のルーツなのだ。
端午の節句はちまき食べ食べ背比べをしよう!!
<文・富士見大>
編集プロダクション・Studio E★O(スタジオ・イオ)代表。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。