『いつかの青春』
高木しげよし 白泉社 \429+税
(2015年4月20日発売)
高校の入学式ほど「青春の入り口」の期待感をわきたたせるものはないのではないか。
冒頭、主人公の結衣が入学式の朝、スカート丈をウエストもうひと巻き分短くしようかと悩むシーンにそんなことを思わされる。
さて、そんなみずみずしい空気に満ちた「新1年生」の教室に、どう見てもオトナすぎる生徒がひとり。
彼、井塚くんはなんと25歳の新入生なのだ!
それというのも10年前――事故で両親を失った井塚は、長男として高校進学をあきらめ、家業を継ぐことを決意したためだ。
弟が高校を卒業した今、一度は経験したかった“高校生活”を楽しもうと入学したのだが……。
やはり10歳の年の差は大きく、井塚はなかなかクラスになじめない。
そこで、担任教師(じつは中学の野球部で井塚の後輩だった!)は、井塚の隣の席の結衣に、彼の世話役を頼むことに。
結衣は人がよくて控えめなタイプ。それだけに自分の希望よりまわりの空気を気にしてしまう井塚の気持ちが理解でき、「この人に“青春”させてあげたい」という使命感に目覚めるのだ。
“青春する” ための行動ルールを提案、「自分のために生きて忘れられない思い出作ろう!」という彼への言葉は、結衣自身への言葉でもあって……。
舞台は古都・金沢から少し離れた温泉街。のどかな町のムード、金沢弁のセリフまわしもほっとする読み口だ。
“青春する”といえば修学旅行、部活、夏祭り、文化祭に体育祭など思い浮かぶキーワードはたくさんあるけれど、そうしたイベントはひとつのきっかけで……記念写真に残らないシーンにも忘れられない思い出はたくさんあるはず。
本作はそんな心揺さぶる場面が満載の、友情と恋の物語なのである。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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