『ちびまる子ちゃん』第10巻
さくらももこ 集英社 \390+税
6月23日は『刑事コロンボ』で特に知られる名優ピーター・フォークの命日。没年は2011年なので、まだ記憶に新しい人も多いだろう。
もちろんピーター・フォークが演じたのはコロンボだけではないのだが、世界各国で放映され、そして人気となったコロンボの印象はどうしても強い。
それを象徴するシーンが、ヴィム・ヴェンダース監督の代表作と言えるであろう『ベルリン・天使の詩』にある。この作品にはピーター・フォークが本人役で出演しているのだが、ドイツに行ってさえもベルリンの街で子供たちに「コロンボだ!」と騒がれるのである。
そして日本でも当然『コロンボ』は大人気となったのだが、ブームが最高潮の頃は、そのドイツと同じく日本でもけっこう子どもにも人気があったことが、『ちびまる子ちゃん』の第10巻に収録されている「プロ野球開幕!! の巻」に描かれている。
なんでプロ野球でコロンボ? と疑問に感じる人もいると思うので解説しておくと、まる子とおじいちゃんが「あと10分でどうやって犯人を追いつめるかがわかる」というところまで『コロンボ』を見ていたのに、野球中継を見ることにはやたら強権を発動する父・ひろしによって結末がわからなくなるというエピソード。そして翌日学校で、丸尾くんに結末を教えてもらうという話だが、ほかにもクラスメイトの山田くんという“愛されるバカ”(キャラ紹介にそう書いてある)までもが『コロンボ』を見ているのだから、その浸透度のほどがうかがえるというものだろう。
ちなみに、丸尾くんの解説から推測するに、おそらくまる子が見ていた『コロンボ』のエピソードは、名作中の名作「別れのワイン」だと思われる。
ちょっと学級委員にかける情熱が異常とはいえ、知的な丸尾くんはきちんと結末を理解していたのだが、山田くんは「最後まで見てたけどわからなかった」という愛されるバカっぷりを発揮している。
はてさて、ワインの知識やワインを愛する男の心情が、もし野球中継に邪魔されずにまる子が最後まで観ていたとして、ちゃんと伝わったのか? それは永遠の謎である。
まぁ、もうひとりコロンボ好きのマンガキャラクターとして有名な空条承太郎さん(『ジョジョの奇妙な冒険』第3部の主人公)と違って、ちっとも細かいことが気にならないまる子のことですから、なんとなく想像はつきますけどね……。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。