『感覚・ソーダファウンテン』第1巻
雁 須磨子 講談社 \581+税
(2015年6月5日発売)
雁須磨子の最新作は、視覚や聴覚など、恋愛における「感覚」がテーマ。
昨年創刊された「ハツキス」連載中のオムニバスシリーズをまとめたもので、第1巻には6人の女性のエピソードが収録されている。
1話目となる「やわらかいパン固いパン」は、「何かをさわって確かめるのが」「さわることそのものが」好きな薬剤師・生駒ユキの物語。
生駒の息抜きであるパン作りも、味より見た目より、生地をさわること自体が彼女にとって心落ちつくものになっている。ただ、「さわること」は好きでも、ある理由で生駒はさわられることに躊躇してしまう。
そんななかで、彼女に好意を寄せている医師・興津と距離を縮めていくが……。
さわることは好きなのに、なぜさわられることは嫌がるのか。そして、さわるという行為にあるもの。ここでそれを説明するのは、野暮というものだろう。それに作品自体でも、そこは決して語りすぎてはいない。
そう、まさに本作は「感覚」的な話なのだ。女性はもちろん、男性であっても共感できるであろう、感覚。他者を前にして、いやがおうにも向き合うことになる、身体や心にまつわる生理的、心情的な感覚。
それを本作はすくいあげている。言葉にならないもやもや、ひりひりした感覚が、見事にマンガになっているのだ。
秀逸なのが、6話目の「彼女の世界」。
話の構造として、さまざまな意味でミステリーになっている一作だが、描かれているものも、まさに人の心の奥底にあるミステリーだ。
ドキッとさせられて、そしてなんだか泣かされる。巻末に描きおろしのおまけマンガがついているが、こちらもまたコミカルなノリながら、グッとくる。作者のすごさも伝わる一篇だ。
淡々としていて、言ってしまえば花屋でもロマンティックでもないけれど、確実に人の心理、男と女のあいだにある真理を突いてくる雁須磨子。『感覚☆ソーダファウンテン』のタイトルもなるほど、だ。
無色透明ながら、シュワシュワとした泡がたっていて、さっぱりもしていれば、甘くもある。それでいて、後味は鮮烈。
読めば、タイトルが物語るその「感覚」もまた「感覚」的に伝わるはずだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。