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『幾百星霜』第4巻 雁 須磨子 【日刊マンガガイド】

2015/05/13


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『幾百星霜』第4巻
雁 須磨子 太田出版 \1,050+税
(2015年4月14日発売)


「マンガ・エロティクス・エフ」誌上で連載されていた、雁 須磨子『幾百星霜』が最新刊第4巻をもって完結を迎えた。

本作は、明治とおぼしき時代を舞台にした、女の子たちの物語。
のっぽで夢見がちながら、人の心配ばかりしている心優しいお嬢様・杉内敦子と、小さくてかわいらしいけれど、口の悪いご令嬢・滝千賀子さん。2人が女学校で出会い、性格は正反対にも関わらず、いつの間にやら仲良くなるところから、物語はスタートする。

敦子の元許嫁で、気弱なお坊ちゃまである火野保太郎、保太郎の姉で、男装の麗人にして毅然とした女性である火野鷹子。保太郎の友人で鷹子に想いを寄せる男くさい宮武など、様々な人たちと関わり合いながら、凸凹お嬢様コンビの日々の騒動が描かれていく。

全体としては、ほのぼのとしたコメディながら、その中にチクッとする描写やグサッとくる言葉もあるのが、作者ならではだ。
人から自分はどう見えているのか、自分は人をどう見ているのか。雁須磨子の作品には、常にそんなテーマと視点がある。
特に本作の登場人物たちは、夢見る時期にして、実際に恋と大人を知っていく年頃のお嬢様たちだけに、それが顕著だ。女の子たちが過ごす女の子である時間の楽しさや息苦しさが、笑いのなかにもしみじみと、いみじくも伝わってくる。

第4巻で描かれるのは、巷を騒がすお嬢様たちの“かどわかし”事件と、その事件に巻きこまれてしまう鷹子の結婚。
鷹子は、婚約者でまるで本心の読めない萩原十太郎と、男装で密かに働くカフェの同僚でかどわかしにかかわる泊との間で、複雑な表情と心情ものぞかせる。
冷静で頭が切れ、気が強い鷹子も、やはり敦子や千賀子と同じく女の子なのだ。その鷹子が、結婚という現実を前に、女の子から女へと変わっていく。

そう、鷹子を通して見れば、本作の最後に描かれているのは女の子の時間の終わりだ。いつまでも夢見ているだけでも、ふわふわしているだけでもいられない。
なるほど、ほのぼのコメディながら、やはり『マンガ・エロティクス・エフ』で描かれるべき作品だったんだなぁと納得だ。
ただ、敦子や千賀子は成長を見せながらも、いまだ女の子の時間を生きている。そうした意味でも、まだまだ続きが読みたいと思わされる一作だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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