『びわっこ自転車旅行記』
大塚志郎 竹書房 \820+税
(2015年6月27日発売)
このマンガは、最後のシーンから見てほしい。
自転車で東京から滋賀県まで走っていく3姉妹の物語。身体はボロボロ、費用は5万円。
母は言う。「新幹線なら1万円ちょっとで半日で帰ってこれるのに、バカみたい」
ですよねー。
このシーンを見たうえで、灼熱の太陽のもと、自転車で、東京から滋賀県まで走っていく彼女たちの様子をぜひ味わってほしい。
著者の実体験をもとにしたこのマンガ、描かてれいるのは、とてもじゃないが快適な旅ではない。
ほぼ火傷にちかい日焼けの痛み。ずるむける手と尻の皮。
体中にたまる乳酸。どれだけ汗をかいても下がることのない体温。
食べても消化吸収できない内臓の疲労。極度の疲労で宿で寝られなくなり、失われる体力。
最大の敵は、疲労でいらだちが募って3人の関係がギスギスしてしまい、さらに疲れてしまうこと。
「自転車はなんて気持ちよくて楽しいんだろう!」はほとんど描かれない。
いかに過酷で、身体に負担がかかり、苦しいかの連続だ。
読んでいるだけで熱中症になりそうなこのマンガ。
不思議なのは読み終わったあと、ここまでキツイと思い知らされるのに、自転車に乗りたくなることだ。
ハンドルが握れないほど極限に挑戦し、体中が悲鳴をあげる。間違いなく辛い。
しかしそこに挑む彼女たちの熱意は、ストイックで、美しい。
「なぜ自転車に乗るか」は、自転車乗りそれぞれにある。「バカみたい」と言われた人も多いだろう。
バカでいいのだ。なんせ、苦労し、つらい思いと戦い抜いたすえに見える世界があるのだから。
それが見たくなるこの感覚、格闘家を見ているかのようだ。
なぜ乗るかじゃない。乗ることこそが目的だ。
にしても作中にある「滋賀県民の二人に一人は琵琶湖を自転車で一周した」って話は本当ですか?
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」