『アトム ザ・ビギニング』第1巻
手塚治虫(案) カサハラテツロー(画) ゆうきまさみ(コンセプトワークス)
手塚眞(監) 手塚プロダクション(協) 小学館クリエイティブ \560+税
(2015年6月5日発売)
あの『鉄腕アトム』をベースに、その前日譚を描く物語。
企画原案はゆうきまさみ、作画は『RIDEBACK』などで知られるカサハラテツローが担当している。
これまでも浦沢直樹が手がけた『PLUTO』など、『鉄腕アトム』のリブート的な作品はいくつかあったのだが、それらは『鉄腕アトム』の1エピソードを再解釈したものだった。
しかし、今作の『アトム・ザ・ビギニング』は「アトム誕生までの道のり」という原典よりも前のエピソードということで、ストーリーは完全にオリジナルとなっている。
メインとなるキャラクターは、若き日のお茶の水博士と天馬博士。原典ではいわば、アトムの「生みの親と育ての親」とでもいう2人である。
そして単行本の表紙になっているのは、アトムではなく「A106(エーテンシックス)」という自律思考型のロボット。さらに、ライバルとなるロボットとして「マルス」が登場する。
このマルスというロボット、アニメ版の『鉄腕アトム』の続編として企画された『ジェッターマルス』を明らかに意識したもの(作中のセリフにも『ジェッターマルス』の主題歌へのオマージュが見られます!)だったり、本作はいろいろと細かいところで手塚治虫ファンならちょっとうれしくなってしまうようなギミックも盛りだくさんなのだが、逆にそんなことをいっさい知らないどころか、原典の『鉄腕アトム』すら読んだことがなくてもノープロブレム。
人類初の完全自律思考型ロボット=すなわち「心を持ったロボット」の開発に燃える2人のロボット工学博士の青春ストーリーとして、だれにでも楽しめる作品となっている。
第1巻ではA106の誕生から、その研究開発費を稼ぐために「ロボレス」なるロボットによる格闘技大会にA106が出場して戦うまでを描いているのだが、ひとつ確実に言えるのは、「全キャラがやたらキュート!」ということ。人間のキャラもそれぞれにひたむきだし、ちっさい体で大活躍するA106もじつに魅力的。
……とまぁ、現時点でも素直におもしろいと言えるのだが、原典を知ってる人にとっては「このままお茶の水博士と天馬博士が平穏に仲よく終わるはずないよね……?」と思わざるをえないワケで、ここから先、どうこじれていく(たぶん)のかは、いろんな意味でドキドキものというほかはありません!
とにかく、今後の展開にも期待大である。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。