『白い街の夜たち』第3巻
市川ラク KADOKAWA \820+税
(2015年6月25日発売)
『わたり鳥の話』、『臭えば獣 香れば媚薬』など、独特のムードをたたえた作風で注目される市川ラク、初の本格連載『白い街の夜たち』が本巻をもって完結をみた。
服飾専門学校に通うヒロイン・文子は、友人からもらったトルコのお守りを身につけていたことをきっかけに、トルコ料理店でアルバイトをすることに。
昼の学生生活と夜のバイト風景が交互に描かれる青春譚は、人間ドラマの部分もトルコ文化入門としても情報量が多い。しかも両者がしっかりと混じりあって滋味あふれる物語を作りあげているのだ。
庶民的にトルコ料理を楽しんでほしいというこだわりを持つ店主・ホジャ。同僚でありベリーダンサーとしてショーも披露するざくろ。
巻が進むごとにそれぞれの葛藤もつまびらかに描かれ、文子の考え方、進路に影響を与えていっていることがダイレクトに伝わってくる。
また、おいしそうなトルコ料理をはじめ、トルコの文化や宗教観に文子が魅せられていく過程もスムーズで、ここは著者がたどった道が反映されているのだろうか。
ペンネームの「ラク」はトルコのお酒の名前だそうで、著者はかなりのトルコ通のよう。まさに、トルコ文化を愛する著者だからこそ描けた物語といえそうだ。
本巻では、専門学校の同級生との人間関係や、かつて文子にトルコのお守りをくれた友との再会も読みどころ。
自己主張や人づきあいが不得手だった文子の世界が徐々に広がっていくさまに感じ入る、読後感のよいラストが待っている!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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