『めだかボックス』第1巻
西尾維新(作) 暁月あきら(画) 集英社 \400+税
7月28日は地名学者・谷川健一の誕生日(1921年)であり、アイヌ語地名研究家として名を馳せた山田秀三の命日(1992年)でもある。
日本地名愛好会は、偉大なる2人の地名研究家の功績を称えて7月28日を「地名の日」に制定している。
マンガ界では『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を筆頭に『博多っ子純情』や『軽井沢シンドローム』、『くにたち物語』に『幕張』、『浦安鉄筋家族』、『東京都北区赤羽』……と、タイトルに地名の入る作品は多々あるが、同様に散見されるのが、キャラクターの苗字に地名をつけることだ。
たとえば『るろうに剣心』は神谷、来迎寺、朝日、不動沢、片貝、渋海など新潟県の地名が主体となっている(著者の和月伸宏は新潟県出身)。同じように『花ざかりの君たちへ』は中条比紗也が大阪府出身なので、芦屋、中津、難波、天王寺、道頓堀、九条など関西の地名が中心である。
学園モノなどで登場人物が多くなってくると、名前を考えるだけでもひと苦労だが、地名シリーズに決めてしまうと、サクサク命名できるという利点があるのだろう。
そんな地名苗字マンガの代表格といえば『めだかボックス』だ。人気作家・西尾維新が初めて手がけた「週刊少年ジャンプ」の連載原作で、作画は『神力契約者(コントラクター)M&Y』の暁月あきらが担当している。
文武両道・容姿端麗で完璧主義者のスーパー生徒会長・黒神めだかが「めだかボックス」と呼ばれる目安箱に寄せられたトラブルを解決していくストーリー。
2011年にはテレビアニメ化もされて人気を博した作品だ。
本作の登場人物は主要キャラから脇の脇まですべて九州の地名で統一されている。ヒロインの黒神めだかは鹿児島市の黒神町から。狂言回し役の人吉善吉は熊本県の人吉市から。そのほか、門司(福岡)、鳥栖(佐賀)、江迎(長崎)、不知火(熊本)、鬼瀬(大分)、鰐塚(宮崎)、阿久根(鹿児島)といった具合だ。
西尾維新が九州出身というわけではないようで、難読地名が多用されることからも言葉遊び的に命名していると推測される。
メジャーな地名のキャラはなぜか扱いが小さいなど、様々な遊び心が盛りこまれており、そのあたりを検証しながら読んでみるのも一興だろう。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。ガイドワークス「パチンコオリジナル実戦術」にて連載中の「パチンコ漫画家列伝」。7月末発売の9月号では、『どんぶり委員長』が絶好調の市川ヒロシ先生が登場します。