『大斬 -オオギリ-』
西尾維新(作) 暁月あきら/小畑健/中山敦支/中村光/金田一蓮十郎 ほか(画) 集英社 \800+税
(2015年4月3日発売)
ファンが読む速度よりも作者の執筆速度のほうが早いと言われる作家が存在する。
たとえば編集のチェックが間にあわないといった速筆伝説を持つ、『とある』シリーズの鎌池和馬がそうだろうが、同様に小説〈物語〉シリーズや、マンガ『めだかボックス』の原作で知られる西尾維新もまさにそのような冗談を体現する作家だろう。 事実、2014年をふり返るだけで、『りぽぐら!』、『終物語 中』、『終物語 下』、『続終物語』、『非業伝』、『掟上今日子の備忘録』の6本の小説に加え、対談集『本題』を発表したうえで、9本の短編を別々の作家が執筆するマンガ企画『大斬 ―オオギリ―』をスタートさせる。
少年マンガ誌から少女マンガ誌まで、ホラーからSF、バトル、ラブコメまで、描くは暁月あきら、小畑健、池田晃久、福島鉄平、山川あいじ、中山敦支、中村光、河下水希、金田一蓮十郎というそうそうたるメンバー。
企画の経緯は西尾の巻末エッセイに詳しい。担当する漫画家は想定せずに、編集者から与えられたお題に大喜利のように答えるかたちで原作が紡がれていったという。
そして一時期「漫画はどこまで展開を早く(ページ数を短く)できるのか」にハマっていたというコメントもあるとおり、ここには、多作を極める西尾維新の、多彩すぎるアイディアと圧倒的なスピード感が濃密につまっている。
そのコンセプトは掲載順ではなく、(末尾の「再読よろしく!」よろしく)執筆順に読み直すことによって、より明確に浮かびあがってくるだろう。
『めだかボックス』を彷彿とさせる一作目「どうしても叶えたいたったひとつの願いと割とどうでもない99の願い」(中村光)や、〈物語〉シリーズを思わせる会話劇の二作目「友達いない同盟」(金田一蓮十郎)といったいかにも西尾らしい作品から始まり、最後は最短の15ページでまとめられて「省略の美学も完成した」という「恋ある道具屋」(山川あいじ)まで。
では、この「どこでも活かせない技術」を応用するとすれば、次はいったいどんな表現が現れ出るのか。
続編企画を待望するとともに、荒木飛呂彦の描く西尾マンガの到来を密かに願いたい。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
「アニメルカ」