『手塚治虫が描いた戦後「NIPPON」上 1945~1964 焦土から東京オリンピックまで』
手塚治虫(著) 中野晴行(編) 小学館 ¥1,500+税
(2015年7月10日発売)
上下巻で刊行された『手塚治虫が描いた戦後「NIPPON」』は、その時代、世相ごとに手塚が発表してきた作品を、激動の戦後昭和の変遷と照らし合わせる形で編んだ傑作選だ。
上巻『…1945~1964 焦土から東京オリンピックまで』には、1945年の終戦で孤児となった子どもたちがタイムスリップする「1985への出発(たびだち)」(初出「月刊少年ジャンプ」1985年7月号)から、自然破壊をテーマとした『鉄腕アトム 赤いネコの巻』(初出「少年」1953年5~11月号)までの8作品を収録。
下巻『…1965~1989 反映と狂乱の時代、未来への警鐘』には、学生運動を時代背景に扱った「レボリューション」(初出「漫画サンデー」1973年1月6・13日~1月20日号)、ハルマゲドンをテーマとしている「熟れた星」(初出『SFマガジン』1971年2月号)までの11作品が選出されている。
上巻の『鉄腕アトム…』、下巻の「ブラック・ジャック 宝島」や「グリンゴ 序章」など、有名作や長編の一編も収録されているが、短編や中編にはファンでもなじみ深いとは言えないものも多い。それだけにあらためて知れるのが、手塚治虫という描き手の幅広さと奥深さだ。
軽妙なタッチの児童マンガから、劇画のテイストもある大人マンガまであり、それらのどの作品にも単なるエンタテイメントを越えたテーマやメッセージがある。
いってみれば、手塚治虫の作品が昭和の歴史そのもので、昭和のマンガ史そのものだ。
しかし感銘深いのは、マンガ表現としてその作品が常に時代の先を行っているのはもちろん、描かれている題材や未来の姿そのものも時代の先を行っていること。
予言者というのは大げさかもしれないが、「予見者」としての手塚治虫のすごさもうかがい知れる作品集だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。