『漫画が語る戦争 焦土の鎮魂歌』
早乙女勝元、 手塚治虫、巴里夫、政岡としや、北条司、中沢啓治、
曽根富美子、ちばてつや、山上たつひこ、村野守美
小学館 ¥1,500+税
8月15日は終戦記念日。1年365日、毎日が何らかの記念日ではあるけれど、日本人ならば絶対に忘れてはいけない日である。
長きにわたる不安と苦しみの日々……第二次世界大戦は敗戦という形で終焉をみた、その報を70年前の人々はどのような気持ちで聞いたのだろう。そこには単に「終わってよかった」という一言だけでは言い尽くせない、さまざまな想いがあったはずだ。
本書は戦時を体験した世代から戦後生まれの作家たちが、多様な角度から戦争を描いた短編アンソロジーだ。
『はだしのゲン』の中沢啓治による「黒い鳩の群れに」は、原爆によって父母を失った兄妹の物語。
兄妹が肩を寄せ合って生きる、というような生やさしいものではない。原爆の後遺症のため先が長くないことを知る兄は、妹がひとりでも生きていけるよう、ときには手を上げて怒鳴りつけ……どんなことをしても生き抜けと叱咤する。終戦のあとも容易に消えるわけではない、戦火の爪痕を生々しく感じさせる作品だ。
この顔ぶれのなかで意外に感じるのは『キャッツ▽アイ』、『シティーハンター』で知られる北条司。『少年たちのいた夏』には、劣悪な環境の疎開先から脱走した少年たちと、ひとりのアメリカ人・ディヴとの交情が描かれる。
ディヴはフルートの演奏家で、かれこれ日本に10年ほど住んでいる。スパイ容疑で捕らえられ、捕虜収容所から逃げてきた彼は、妻子の待つ東京を目指す途中で少年たちと出会い、道行きをともにすることに。そのなかで、“アメリカ人”をかたくなに敵視していた少年の気持ちに変化が訪れていくのだが……。
我々はしばしば「平和を守ろう」と口にする。それが真に意志的な言葉であるためには、戦時を生きた人々のできる限りたくさんの立場に触れることが肝要だ。
戦後70年……“生き証人”がますます少なくなっていくこれから、戦争を伝える作品の果たす役割は大きい。
※文中に登場する、「▽」は白抜きハートマークです。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」