『虹色のトロツキー 愛蔵版』第1巻
安彦良和 双葉社 ¥2,000+税
ロシアの革命家であり、十月革命の指導者のひとりであるレフ・トロツキー。
そのトロツキーがスターリンとの対立のなかで、亡命先のメキシコで暗殺されたのが、1940年の8月21日だ。
天才と称されることの多いトロツキーを、大日本帝国の事実上支配下にある満州国へ招き寄せる――安彦良和の『虹色のトロツキー』は、そんなあったかもしれない謀略を縦糸に、昭和初期の現代史に挑んだ力作である。
主人公は日本人とモンゴル人のハーフという、激動の時代の観察者にふさわしいだろう、どこにも所属しきれない出自を持つ青年・ウンボルト。
作品は、彼が石原莞爾をバックに満州国は五族協和を理念に掲げる建国大学へ編入してくるところから幕を開け、植芝盛平、辻政信、安江仙弘、甘粕正彦、岸信介(安倍晋三の祖父)ら実在の人物を交えた入り組んだ人間模様とともに、第二次世界大戦へと突入、ノモンハン事件で幕を下ろす。
見る立場によって異なった色に見えてくるこの時代の混沌を、美しくしかしとらえどころのない虹色のままに描き切った本作を、戦後70年の今年の夏、読み返してみる意味は少なくないだろう。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
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